どんなことがあっても、季節はめぐる。
 それは一個人にどんなことがあったとしても変わらないし、明と婚約解消になった時も、湊人から身を引いた時だって、当たり前にどんどん時は流れていった。
 湊人と離れてから一年半ほどが過ぎて、また彼と出会った季節がやってきた。
 空は今にも雨の降り出しそうな重たい雲で覆われて薄暗い。
 梅雨時のじっとりと湿気をはらんだ空気が鬱陶しくて、自室の窓を閉めた。

「結衣! 瑠璃ちゃんがいらっしゃったわよ!」

 階下から母の呼ぶ声がして、私は年季の入ってギシギシと音をたてる階段を駆け下りた。
 三ヶ月ぶりに会う瑠璃が、すっかり大きくなったお腹を撫でながら手を挙げた。

「いらっしゃい。久しぶり。こんな遠くまで、ありがとう」
「お邪魔します。元気そうだね」
「瑠璃も。もう八ヶ月だっけ? 妊娠して大変なんだから、私がそっちまで行ったのに」
「いいのいいの。結衣の実家、一度遊びにきてみたかったんだもん。私から言い出したんだから気にしないで」

 瑠璃が手をぱたぱたさせながら歯を見せて笑った。
 母が盆の上に麦茶の入ったグラスとフレンチトーストの皿を運んでくる。

「瑠璃ちゃんがお土産に持ってきてくださったのよ。わざわざ、ありがとうね」
「うちの夫が作ったものなんで、お口に合うか分かりませんけど。よかったらお母様も召し上がってください」
「嬉しいわ。この前、夕方のテレビでやってたわよね? あとでいただくわ」

 甘いものがすこぶる好きな母は少女のように無邪気に笑った。
  瑠璃の店はSNSから人気に火がつき、今や休日は行列ができるほどの人気店になっていた。
 彼女の妊娠も店の繁盛もとてもおめでたく、自分のことのように嬉しい。

「じゃぁ、私はお邪魔になっちゃうと悪いから買い物でも行ってくるわ。瑠璃さん、ごゆっくり」

 母は気を利かせて、いそいそと出かけていった。

「ごめんね。なんだか慌しくて」
「ううん。瑠璃のお母さん、あんなかんじなんだね。可愛い」
「ただ甘いものが好きなだけだって」
「うちのお姑さんなんて、すごく気が強いんだから。あんなお母さんだったら、私も接しやすいのになぁ」

 私が苦笑すると、瑠璃も笑った。
 時折、赤ちゃんが動くのか彼女はお腹に手を添える。