電車で三十分ほどの繁華街にある駅で下車して、瑠璃に指定されたパンケーキが話題だというカフェで彼女と落ち合う。
南国を思わせる装飾とBGMのハワイアンミュージックに心がちょっとときめいた。
窓際のソファー席に案内されると、瑠璃は「敵情視察よ」と小声で言ってニヤッと笑う。
入道雲のような生クリームとフルーツのどっさりのったパンケーキを二人でつつきながら、お互い近況報告をする。
「で、結衣は新しい彼氏、できたの?」
「できないよ。作ろうとも思ってないし」
「まだ好きなの? 湊人くんのこと」
瑠璃が見透かしたように、さらっとそんなことを言うから、私は驚いてパンケーキを喉に詰まらせた。
ゴホゴホと咽てしまって、慌ててアイスティーで流し込んだ。
肩で息をする。
「大丈夫? 図星だったんでしょ」
「……うん。未練とか、そういうかんじじゃなくて、今も湊人への気持ちは現役っていうか。ずっと会ってないのに、変に思われるかもしれないけど」
「変だなんて思わないよ。でもやっぱりまだ好きなんだね。あんたらしいわ、一途で」
なんと返していいのか口ごもっていると、瑠璃がまたパンケーキを頬張った。
「でも、そう思っててもさ、また新しく恋しちゃうもんなんじゃないの? 誰かのことを一生忘れないって思っても、忘れられちゃったりするもんじゃん」
三十年ちょっと生きてきて、十代から何度か恋愛を経験して。
新しい恋を始めた時、失恋した時、その時、その瞬間は絶対に相手を忘れないと思うものだ。
でもそれが新しい恋で塗り替えられることを、私は今までの経験から学んだ。
きっと誰しもそうだし、瑠璃の言うことはもっともだと思う。
それなのに、不思議と湊人に対しての気持ちは違った。
決して過去のものにはならないし、私の人生に彼以上の人が現れるとは到底思えなかった。
「今も私の一番は湊人で、この先もずっと好きだよ。忘れるとか忘れないとか、そういう問題じゃない。離れているけど、一緒にいるときと同じように、私はずっと湊人を好きでいる」
「そんなに好きなら、やっぱり離れなければよかったのに」
「ううん。いいの」
「でも……。そんな未来のない恋、おかしいじゃない。相手の中では終わってて、結衣が寂しいとき、そばにいてもくれない。抱きしめてももらえないんだよ?」
冷静そうに見えた瑠璃の声が大きくなる。私がとっさに口の前で人差し指を立てると、ハッとした彼女が声のボリュームをおとした。
「とにかく、私は結衣に幸せになってほしいの。まだ、そんなに年下君のことが好きなら、本当は彼と幸せになってほしかったって思う」
「ありがとう」
私が微笑むと、瑠璃はちょっと納得のいかない顔でパンケーキの最後の一欠けを口に放りこんだ。
南国を思わせる装飾とBGMのハワイアンミュージックに心がちょっとときめいた。
窓際のソファー席に案内されると、瑠璃は「敵情視察よ」と小声で言ってニヤッと笑う。
入道雲のような生クリームとフルーツのどっさりのったパンケーキを二人でつつきながら、お互い近況報告をする。
「で、結衣は新しい彼氏、できたの?」
「できないよ。作ろうとも思ってないし」
「まだ好きなの? 湊人くんのこと」
瑠璃が見透かしたように、さらっとそんなことを言うから、私は驚いてパンケーキを喉に詰まらせた。
ゴホゴホと咽てしまって、慌ててアイスティーで流し込んだ。
肩で息をする。
「大丈夫? 図星だったんでしょ」
「……うん。未練とか、そういうかんじじゃなくて、今も湊人への気持ちは現役っていうか。ずっと会ってないのに、変に思われるかもしれないけど」
「変だなんて思わないよ。でもやっぱりまだ好きなんだね。あんたらしいわ、一途で」
なんと返していいのか口ごもっていると、瑠璃がまたパンケーキを頬張った。
「でも、そう思っててもさ、また新しく恋しちゃうもんなんじゃないの? 誰かのことを一生忘れないって思っても、忘れられちゃったりするもんじゃん」
三十年ちょっと生きてきて、十代から何度か恋愛を経験して。
新しい恋を始めた時、失恋した時、その時、その瞬間は絶対に相手を忘れないと思うものだ。
でもそれが新しい恋で塗り替えられることを、私は今までの経験から学んだ。
きっと誰しもそうだし、瑠璃の言うことはもっともだと思う。
それなのに、不思議と湊人に対しての気持ちは違った。
決して過去のものにはならないし、私の人生に彼以上の人が現れるとは到底思えなかった。
「今も私の一番は湊人で、この先もずっと好きだよ。忘れるとか忘れないとか、そういう問題じゃない。離れているけど、一緒にいるときと同じように、私はずっと湊人を好きでいる」
「そんなに好きなら、やっぱり離れなければよかったのに」
「ううん。いいの」
「でも……。そんな未来のない恋、おかしいじゃない。相手の中では終わってて、結衣が寂しいとき、そばにいてもくれない。抱きしめてももらえないんだよ?」
冷静そうに見えた瑠璃の声が大きくなる。私がとっさに口の前で人差し指を立てると、ハッとした彼女が声のボリュームをおとした。
「とにかく、私は結衣に幸せになってほしいの。まだ、そんなに年下君のことが好きなら、本当は彼と幸せになってほしかったって思う」
「ありがとう」
私が微笑むと、瑠璃はちょっと納得のいかない顔でパンケーキの最後の一欠けを口に放りこんだ。