風に舞いながら降ってくる桜吹雪を二人で眺める。

「綺麗ですね」
「そうだねぇ」
「ただのお昼休みのお弁当でお花見気分を味わえるなんて、ちょっとお得」

 私の言葉にサワコさんがくすくす笑う。

「ところで、変なこと聞くようだけど、山本さんは結婚とか、しないの?」

 突然の問いに私が目を丸くすると、サワコさんが慌てふためいて首を振った。

「あー、ごめん、ごめんね。やっぱり無神経だったかな」
「そういうことじゃないんです。突然だったから、ビックリしちゃっただけで。えーっと、結婚ですか?」
「うん。実は部内に山本さんのこと、良いなって言ってる男連中もいるのよ。それで、どうなのかなーって、ちょっと気になっちゃって」

 頬を指で掻きながら苦笑するサワコさんに、私は困った。

「彼氏もいませんし、結婚の予定はありません。でも、そんな変な冗談やめてくださいよ」
「冗談じゃないのよ。ほら、倉木くんなんか、よくどうでもいいことでも山本さんのところに言いにいくじゃない?」

 確かに営業課の倉木さんは、しょっちゅう取引先にもらったとかでお菓子をくれたり、話しかけてくれる気さくな人だ。

「ただ、入ったばかりの私に良くしてくださってるだけですよ」
「うーん、山本さんって鈍いのかな?」
「え?」
「なんでもない。彼氏ができる予定もない?」

 彼氏ができる予定。
 そんなもの、あるはずがない。
 私の心の中には今も、当たり前のように湊人がいる。
 一瞬、脳裏によぎった湊人の笑顔に思考がもっていかれた。

「なるほど。好きな人がいるのね」

 私を覗き込んでいたサワコさんが、訳知り顔で頷いた。

「こんな年で、なんだか恥ずかしいんですけど」
「誰かを好きになる気持ちに、年齢なんて関係ないでしょう」

 そう、もう、今は年齢なんか関係ない。
 こうして一人、湊人を想っているだけなら、年の差だって関係ないのだ。
 ある意味、未来も何もない一人相撲な恋だけれど、これはこれで心から幸せだと思っていた。
 白っぽい桃色の花びらがふわっと私の唇に当たる。
 その感触に、湊人にされた、あの映画館での初めてのキスを思い出した。

「あ、今、なんか可愛い顔してた」

 おもしろそうに私を指差して、サワコさんが笑った。