オープン前にも関わらず、二人は店を開けて待っていてくれた。
電話越しの私の様子がおかしいことに、きっと気付いていたのだろう。
瑠璃が心配そうな顔で、私をテーブル席にうながした。
私は椅子には座らず、二人に深く頭を下げる。
「今日で辞めさせてください。せっかくご厚意で雇ってくれたのに、本当にごめんなさい」
「突然、どうしたの?」
瑠璃の声に姿勢を正すと、ちょうど義信さんに目配せをしているところで、妻の意思を察した彼は眉根を寄せたまま、ちょっと離れたカウンター席に座った。
「座って。いいから」
落ち着けるように瑠璃が背中を軽くとんとんと叩いて、私は静かに椅子に腰掛けた。
「私、湊人と別れることにしたの」
「別れるって……やっと、付き合うことにしたんじゃないの?」
「そう、なんだけど……。私が彼の将来を変えてしまうんじゃないかって、怖くなったの。湊人の人生を、私のせいで妥協するようなものにしてほしくない」
「妥協って。そんなの、年下くんが決めることじゃないの? 結衣が勝手に決めることじゃないでしょう?」
「でも、十歳も年下なんだよ? 彼を好きになればなるほど、きっと結婚だってしたくなるし、子供だって欲しくなる。彼が夢を追って旅立ちたくても、私と子供がいたら諦めざるを得ないかもしれない」
瑠璃が固い表情で私をじっと見つめている。
たまらず目を逸らすと、ため息をついてかぶりを振った。
「それで? 結衣が離れて、湊人くんはどうなるの?」
「どうって……」
「それで彼は、夢に向かって自由に羽ばたけるとでも思うの?」
「……思うよ。そうなってくれないと、困る。だって、本当は離れたくないもの」
――そう、これは湊人の未来のための別れだ。
涙が溢れそうになって膝の上でぎゅっと指を握り締めた。
瑠璃がため息をつく。
「結衣、あんただって、もう幸せになってもいいんじゃないの?」
「私だけが幸せな関係なんて、欲しくない。湊人の足かせになんて、なりたくないよ」
瑠璃は悲しげな表情で肩を落とした。
電話越しの私の様子がおかしいことに、きっと気付いていたのだろう。
瑠璃が心配そうな顔で、私をテーブル席にうながした。
私は椅子には座らず、二人に深く頭を下げる。
「今日で辞めさせてください。せっかくご厚意で雇ってくれたのに、本当にごめんなさい」
「突然、どうしたの?」
瑠璃の声に姿勢を正すと、ちょうど義信さんに目配せをしているところで、妻の意思を察した彼は眉根を寄せたまま、ちょっと離れたカウンター席に座った。
「座って。いいから」
落ち着けるように瑠璃が背中を軽くとんとんと叩いて、私は静かに椅子に腰掛けた。
「私、湊人と別れることにしたの」
「別れるって……やっと、付き合うことにしたんじゃないの?」
「そう、なんだけど……。私が彼の将来を変えてしまうんじゃないかって、怖くなったの。湊人の人生を、私のせいで妥協するようなものにしてほしくない」
「妥協って。そんなの、年下くんが決めることじゃないの? 結衣が勝手に決めることじゃないでしょう?」
「でも、十歳も年下なんだよ? 彼を好きになればなるほど、きっと結婚だってしたくなるし、子供だって欲しくなる。彼が夢を追って旅立ちたくても、私と子供がいたら諦めざるを得ないかもしれない」
瑠璃が固い表情で私をじっと見つめている。
たまらず目を逸らすと、ため息をついてかぶりを振った。
「それで? 結衣が離れて、湊人くんはどうなるの?」
「どうって……」
「それで彼は、夢に向かって自由に羽ばたけるとでも思うの?」
「……思うよ。そうなってくれないと、困る。だって、本当は離れたくないもの」
――そう、これは湊人の未来のための別れだ。
涙が溢れそうになって膝の上でぎゅっと指を握り締めた。
瑠璃がため息をつく。
「結衣、あんただって、もう幸せになってもいいんじゃないの?」
「私だけが幸せな関係なんて、欲しくない。湊人の足かせになんて、なりたくないよ」
瑠璃は悲しげな表情で肩を落とした。