「で? 思い出した?」
湊人が一通り話し終えるまで、私は馬鹿みたいに口をぽかんと開けて固まっていた。
まさか、新宿の路上で救われたあの日が出会いではなかったなんて。
そのずっと前に湊人と会ったことがあるだなんて、思いもしなかった。
それにそんな二年も前のことを、彼が覚えていてくれたなんて。
「そんなこと、あったような気もするけど……正直、はっきりとは覚えてないかも。ごめん」
「嘘だろ? こんなスーパーイケメンだぞ?」
「それ、自分で言う?」
ちょっと湊人に申し訳ない気持ちになっていたのに、どこまで本気なのか分からないナルシストな言葉に思わず笑ってしまった。
「ごめんね。あの頃は明しか目に入っていなかったから。他の異性のことはみんな、かっこいいとかそういう目で見られなかったんだよね」
「マジかよ……」
湊人が肩を落としてため息をつく。
瑠璃の結婚式の日にヘアセットをしてもらったことは分かったけれど、それで二年越しに再会して私を選んでくれた理由がやっぱりはっきりとは分からなかった。
でも、あの日。
彼のことや美容院での出来事をちゃんとは覚えていないけれど、確実な記憶がひとつ残っていた。
「あの日の髪型、色んな人に綺麗だねって褒めてもらえたのは覚えてる。すごく嬉しかったから。あの時も私を綺麗にしてくれたのは湊人だったんだね」
湊人は一瞬、驚いたように目を見開いて、それから優しく微笑んだ。
胸がドキリと大きく鳴って、私は思わず胸を押さえた。
「これからもずっと、俺が結衣を綺麗にしてやるよ」
なんて甘い響きだろう。これからもずっとなんて。
怖いくらい、幸せでたまらない。
湊人のことが愛しい。
それでも、私の胸の中には一抹の不安があった。
湊人はさらっと「これからもずっと」なんて言葉を使う。
昨日だって明のことを「そいつといた何十倍も一緒にいてやる」なんて励ましてくれた。
私はもう三十四歳だ。
付き合うことができれば、次は否応なく結婚を意識してしまう。
湊人の言葉に期待してしまう。
それでは一体、十歳も下の湊人はいつ、私とそうなるつもりでいるのだろうか。
妊娠出産子育てまでを考えると、年齢的にどうしたって焦らざるをえないのが本音だ。
彼が本当にずっとそばにいてくれるつもりなのかもしれないけれど、話し合わなければならない問題は山積みなんじゃないかと思った。
けれど、この甘ったるくて優しい時間が、何ものにも変え難いほどに大切で。
私はそんなことは言い出せず、湊人がおにぎりを口いっぱいに頬張るのをただ微笑んで見つめていた。
湊人が一通り話し終えるまで、私は馬鹿みたいに口をぽかんと開けて固まっていた。
まさか、新宿の路上で救われたあの日が出会いではなかったなんて。
そのずっと前に湊人と会ったことがあるだなんて、思いもしなかった。
それにそんな二年も前のことを、彼が覚えていてくれたなんて。
「そんなこと、あったような気もするけど……正直、はっきりとは覚えてないかも。ごめん」
「嘘だろ? こんなスーパーイケメンだぞ?」
「それ、自分で言う?」
ちょっと湊人に申し訳ない気持ちになっていたのに、どこまで本気なのか分からないナルシストな言葉に思わず笑ってしまった。
「ごめんね。あの頃は明しか目に入っていなかったから。他の異性のことはみんな、かっこいいとかそういう目で見られなかったんだよね」
「マジかよ……」
湊人が肩を落としてため息をつく。
瑠璃の結婚式の日にヘアセットをしてもらったことは分かったけれど、それで二年越しに再会して私を選んでくれた理由がやっぱりはっきりとは分からなかった。
でも、あの日。
彼のことや美容院での出来事をちゃんとは覚えていないけれど、確実な記憶がひとつ残っていた。
「あの日の髪型、色んな人に綺麗だねって褒めてもらえたのは覚えてる。すごく嬉しかったから。あの時も私を綺麗にしてくれたのは湊人だったんだね」
湊人は一瞬、驚いたように目を見開いて、それから優しく微笑んだ。
胸がドキリと大きく鳴って、私は思わず胸を押さえた。
「これからもずっと、俺が結衣を綺麗にしてやるよ」
なんて甘い響きだろう。これからもずっとなんて。
怖いくらい、幸せでたまらない。
湊人のことが愛しい。
それでも、私の胸の中には一抹の不安があった。
湊人はさらっと「これからもずっと」なんて言葉を使う。
昨日だって明のことを「そいつといた何十倍も一緒にいてやる」なんて励ましてくれた。
私はもう三十四歳だ。
付き合うことができれば、次は否応なく結婚を意識してしまう。
湊人の言葉に期待してしまう。
それでは一体、十歳も下の湊人はいつ、私とそうなるつもりでいるのだろうか。
妊娠出産子育てまでを考えると、年齢的にどうしたって焦らざるをえないのが本音だ。
彼が本当にずっとそばにいてくれるつもりなのかもしれないけれど、話し合わなければならない問題は山積みなんじゃないかと思った。
けれど、この甘ったるくて優しい時間が、何ものにも変え難いほどに大切で。
私はそんなことは言い出せず、湊人がおにぎりを口いっぱいに頬張るのをただ微笑んで見つめていた。