「あぁ、ここにいたんだ。探したよ」

 突然、涼しげに高く澄んだ声がして、私の空いていた右手を誰かが握った。
 ひんやりとした、細い指。
 びっくりして見上げると、背の高い痩せ身の男の子が立っていた。
 ビッグシルエットのTシャツに黒のスキニーパンツ。
 モデルか何かかと思うほど、すらっとしていてスタイルが良い。
 男の子と形容してしまったのは、まだハタチそこそこに見えたからだ。
 街の灯りに照られた横顔が、美しいと形容してもおかしくない程に整っていて、目を見張る。
 色素の薄い瞳のアーモンドアイに、すっと通った鼻筋。
 薄い唇は口角がきゅっと上がって、うっすら笑みが浮かんでいる。

「いきなり、なんなんだ」

 男がたじろいで腕から手を離すと、彼は私を自分の方にそっと引き寄せた。

「すいません。彼女が道に迷っちゃってたみたいで」
「そんなの、でたらめだろ。俺は人助けのつもりで……」

 笑っているのに、彼の眼の奥が冷たくなっていく。
 あんな瞳に見つめられたら凍りついてしまいそうだ。
 彼は男の言葉を(さえぎ)って言う。

「欲求不満でしたら、そういうお店にでもどうぞ。それとも奥さんに電話でもしましょうか?」

 男は明らかに狼狽(ろうばい)していた。
 頰を上気させて、口の中でもごもご何かを言おうとする。
 それでも異様な雰囲気を察した通行人が何人か立ち止まり始めているのを見て、諦めたように首を振った。

「な、なんだよ。人が親切で言ってやったのに。そんなところで寝てるのが悪いんだろう」

 男はそう吐き捨てて、一歩二歩と後退し、そのまま逃げるように人混みに紛れて消えていった。
 ――助けてくれた?
 私はただ呆然として男の子を見上げた。
 彫刻のような、美しい横顔。
 感情の読み取れない瞳が男の消えた方をじっと見据えていた。
 繋がれた彼の左手首には金色の細いバングル。
 パーマのかかったようなふわっとした髪は明るめの黄みがかったアッシュカラーに綺麗に染められている。
 改めて見ると本当にイマドキの若い子というかんじで、尚更なぜこんな男の子が、私なんかを助けたのか分からない。
 まるでベタな少女漫画か何かのようだと、ぼんやり思う。