瑠璃は義信さんの登場で心なしか落ち着きを取り戻したようにも見えるけれど、目は爛々(らんらん)としている。

「なによ、やることやってるんじゃない。それでまだ付き合ってないの?」
「付き合ってないってば。キスだって、なんか、悪戯? されたみたいなもんだし」
「悪戯?」
「うん。それに、誰にでもそういうことしてるかもしれないじゃん。まだ若いし、彼なら女の子だって選び放題だと思う。ちょっと信じられなくて」
「結衣」

 瑠璃のことだからまた大笑いでもするかと思ったのに、急に真面目なトーンで名前を呼ばれて私は居住まいを正した。
 さっきまでとはまるで別人のような真剣な目で私を見ている。

「それはないんじゃないの?」
「え?」
「明のことで人間不信になる気持ちも分かるけど。年下くんはさ、結衣が立ち直るようにそばにいてくれたんじゃないの?」
「そうだけど……」
「髪を切ってくれたり、外に連れ出してくれたり?」

 瑠璃に圧倒されて、私は何も言えなくなってしまった。

「正直、(もてあそ)ぶつもりだったら、こんなに結衣に時間なんか割かないよ。さっさと食べられて、はい、おしまい。でしょ?」

 瑠璃は両手を組んで握ってから、ぱっと開いて見せた。

「結衣のところにご飯食べにきたのだって、結衣が食事も喉を通りませんって感じだったから食べられるように見にきたんじゃないの?」
「まさか」

 これまで何度か湊人が私のマンションを訪れて、一緒に食事をしたこともあったけれど、そんなこと考えたこともなかった。

「番犬だって、そうでしょう。そんなの口実で結衣を外に連れ出してくれてただけよ」
「そんなこと」
「あるね、絶対」
「でも、こんな三十路のおばさんに本気になると思う?」

 瑠璃が深いため息をつく。

「好意がなかったら、そんなことしない。今までそんな無償の愛、捧げてくれた男、他にいた?」

 私が首を横に振ると、瑠璃は頷いてきっぱり言い放った。

「信じてあげないと年下君に失礼だよ」

 彼女はまたため息を吐き出して「まぁそうなるのも無理もないけどさ」と私の肩をポンポンと二回優しく叩いた。
 クレープの最後の一欠けを口に放り込んで空いた食器をキッチンに運ぶ。
 瑠璃は昔からこうだった。何か間違ったことがあれば本音でぶつかっていく。
 いつでもはっきり言うから、きつい人だと捉えられて損をしてしまう時もあった。
 けれど私は彼女のまっすぐに諭してくれるところと、それ以上の思いやりに救われてきた。