「フレンチトースト、あそこのテーブルに運んで」
瑠璃がカウンターに置いたフレンチトーストのスキレットを、指示通りに窓際のテーブルに運ぶ。
「おまたせしました」
そっと静かに置くことを心がけながら微笑む。
私と同い年くらいの女性客はこちらを見るでもなくスマホでフレンチトーストを撮影し始めた。
接客業なんて高校時代にアルバイトでスーパーで働いていた時以来だ。
湊人みたいに営業スマイルが上手にできているといいのだけれど。
年々、月日の流れが早く感じる。
九月になってあと三ヶ月で一年が終わるのかと思うと急にこのまま無職でいるということに焦りはじめ、私は瑠璃に連絡をとった。
湊人のおかげで食欲も復活して三食しっかり食べられるようになっていたし、お酒を飲まなくても眠れるようになった。
精神的にもだいぶ持ち直して、今や部屋の家具を見ても悲しくなんてならない。
空っぽになったCDラックには、湊人に勧められたバンドのアルバムが二枚並んでいる。
そろそろ社会復帰するべき頃合だったと思う。
貯金もだいぶ減ってきていたから、ご好意に甘えて瑠璃の店でアルバイトをしながら人生二度目の就職活動をしようと考えた。
今日で出勤二日目。
私は瑠璃についてホールでの接客を手伝うことになった。
まだ全然慣れないけれど、とにかく笑顔で! との瑠璃の助言に従って、なんとか仕事に励んでいる。
瑠璃と彼女の旦那さんである義信さんとで切り盛りするこのカフェは、パンケーキとフレンチトーストなどの料理が人気で、女性客が多い。
キッチンを担当するのは義信さんで、高校、大学とアメフト部に所属していたという、筋肉質でがたいの良い彼が甘いパンケーキやフレンチトーストを焼く様はどこか可愛らしい。
瑠璃は義信さんのことを「蜂蜜好きの熊さんみたいで可愛いの」なんて冗談半分に惚気る。
義信さんの作るスウィーツは最近ではSNSでもじわじわと話題になってきているらしい。
ランチタイムの十一時から十五時にはサラダとかりかりに焼いたベーコンを添えてパンケーキやフレンチトーストを提供していて、前回も今日もけっこうな客入りだった。
分からないなりに瑠璃の指示に従ってなんとか仕事をこなしていると時間はあっという間で、気付くとさっきの客がランチタイムの最後の一組になっていた。
瑠璃が最後の客の会計をする様子を、隣でメモを取りながら眺める。
馴染みのあるレジスターではなく、タブレットのアプリを使って金銭を管理していて今時だなぁと思う。
アルバイトで使ったことのあるレジとは全然違うように感じて、ついていけるか不安だ。
そんなことを言うと、瑠璃に「私でもできるんだから、結衣にできないわけないじゃない」と笑われた。
ガラス戸のオープンの札を裏返す。月曜日と水曜日のみ一時間だけ一旦店を閉めて、十六時からまた営業を再開する。
瑠璃がカウンターに置いたフレンチトーストのスキレットを、指示通りに窓際のテーブルに運ぶ。
「おまたせしました」
そっと静かに置くことを心がけながら微笑む。
私と同い年くらいの女性客はこちらを見るでもなくスマホでフレンチトーストを撮影し始めた。
接客業なんて高校時代にアルバイトでスーパーで働いていた時以来だ。
湊人みたいに営業スマイルが上手にできているといいのだけれど。
年々、月日の流れが早く感じる。
九月になってあと三ヶ月で一年が終わるのかと思うと急にこのまま無職でいるということに焦りはじめ、私は瑠璃に連絡をとった。
湊人のおかげで食欲も復活して三食しっかり食べられるようになっていたし、お酒を飲まなくても眠れるようになった。
精神的にもだいぶ持ち直して、今や部屋の家具を見ても悲しくなんてならない。
空っぽになったCDラックには、湊人に勧められたバンドのアルバムが二枚並んでいる。
そろそろ社会復帰するべき頃合だったと思う。
貯金もだいぶ減ってきていたから、ご好意に甘えて瑠璃の店でアルバイトをしながら人生二度目の就職活動をしようと考えた。
今日で出勤二日目。
私は瑠璃についてホールでの接客を手伝うことになった。
まだ全然慣れないけれど、とにかく笑顔で! との瑠璃の助言に従って、なんとか仕事に励んでいる。
瑠璃と彼女の旦那さんである義信さんとで切り盛りするこのカフェは、パンケーキとフレンチトーストなどの料理が人気で、女性客が多い。
キッチンを担当するのは義信さんで、高校、大学とアメフト部に所属していたという、筋肉質でがたいの良い彼が甘いパンケーキやフレンチトーストを焼く様はどこか可愛らしい。
瑠璃は義信さんのことを「蜂蜜好きの熊さんみたいで可愛いの」なんて冗談半分に惚気る。
義信さんの作るスウィーツは最近ではSNSでもじわじわと話題になってきているらしい。
ランチタイムの十一時から十五時にはサラダとかりかりに焼いたベーコンを添えてパンケーキやフレンチトーストを提供していて、前回も今日もけっこうな客入りだった。
分からないなりに瑠璃の指示に従ってなんとか仕事をこなしていると時間はあっという間で、気付くとさっきの客がランチタイムの最後の一組になっていた。
瑠璃が最後の客の会計をする様子を、隣でメモを取りながら眺める。
馴染みのあるレジスターではなく、タブレットのアプリを使って金銭を管理していて今時だなぁと思う。
アルバイトで使ったことのあるレジとは全然違うように感じて、ついていけるか不安だ。
そんなことを言うと、瑠璃に「私でもできるんだから、結衣にできないわけないじゃない」と笑われた。
ガラス戸のオープンの札を裏返す。月曜日と水曜日のみ一時間だけ一旦店を閉めて、十六時からまた営業を再開する。