「結衣、すっげえ分かりやすいから。俺のこと好きだって顔に書いてある」
「そんなわけないでしょ!」

 ニヤニヤしながらまた覗き込まれて、とっさに両手で顔を(おお)った。
 どんな顔をしているか、自分でもいまいち分からない。
 けれどそんなことを言われてしまった以上、見られたくはない。
 触れた顔が熱い。きっとこれだけ赤くなっていたら意識しているのはさすがにバレバレだろう。

「なんだよ」
「顔、見られたくない」
「いや、書いてあるって言ったのは例えであって……」
「そうだとしても、今は見られたくない」
「ちょっ、おい、やめろよ。そんなことずっとしてたら、俺が泣かせてるって勘違いされるだろ。ほら、見られてるって」

 さっきまでの余裕たっぷりの態度はどこへやら、一瞬で慌てふためく湊人に笑いがこみ上げてくる。

『うわ、修羅場?』
『彼氏、ひどくない?こんなとこで泣かせるなんて』

 すれ違い様に聞えた通行人の声に、口元が緩んだ。
 今度は私が仕返しする番だ。おおげさに鼻をすすって泣くまねをする。
  いつも強引に自分のペースに巻き込んで私を振り回す湊人を、ちょっと困らせてやりたくなった。
 盛大に肩も震わせてみる。
 道行く人達に存分に冷たい目で見られるといい。

「さっきの仕返しだよ」
「なんだよそれ」

 湊人の呆れたような声がして、私は堪え切れず手のひらの下で声をあげてわらった。

「おい、怖いだろ、やめろよ、それ」

 手をどけると、湊人が眉根を寄せて困惑した表情でこっちを見ていた。
 私はそんな彼をその場に残して、さっさと歩き出す。
 気持ちを言い当てられたことを思うと、穴があれば入りたいくらいとんでもなく恥ずかしかったけれど。
 今はとても気分が良い。
 振り回される側の気持ち、少しは分かってくれたかな。

「待てよ」

 湊人が足早に追ってきて隣に並ぶ。顔を見ると先程の表情が思い出されて、また可笑しくなって、くすくす笑ってしまう。
 彼は困り顔で頭を掻くと、当たり前のことのように私の手を握った。