いつもならエンドロールが流れ終わるまでは退場しない派なのに、今日はそわそわして早く席を立ちたくて堪らなかった。
一刻も早く劇場から出て、さっきのあれはなんだったの? と湊人に問いただしたい。
それなのに、湊人は席を立とうとしない。まばらだった観客は、劇場が明るくなる頃には誰もいなくなっていた。
湊人が横で欠伸をしながら伸びをしている。
「んー。思ったより退屈だったな?」
平然と感想を求められ、私は退場を待たずにまくしたてる。
「そんなことより、さっきのって」
「なに? ふたりっきりだし、もう一回したい?」
早口な私の言葉を遮って、悪戯っぽく口角を上げる湊人に耳が熱くなった。
「バカ!」
思わず口をついて出た短絡的な罵りにも、湊人は愉快そうに笑っている。
「でも、この前、もうしばらくこのままでいいって言ったのに悪かった」
「そうだよ。なんで急にこんなこと」
「だって結衣がビビるところを見たくてこの映画を選んだのに、お前、全然怖がらねぇんだもん」
ロビーでのやけに楽しそうだったあの態度はそういうことだったのか。湊人の子供じみた魂胆が分かって、ちょっと呆れる。
「だからって」
「しかも、俺のこと笑ったろ。さっきのはそのおかえしな」
私の文句を封じこめて、勝手なことを言うと湊人はさっさと立ち上がった。
もやもやした思いを抱えながら、彼に続いて外に向かう。
建物から出ると、夜風がひんやりとして肌寒かった。
半袖一枚で着たことを後悔する。
そんな素振りは見せなかったはずなのに湊人がすぐに羽織っていた黒いカーディガンを脱いで私の肩に優しく被せた。
彼の体温がちょっと残っているような気がして、こそばゆい。
「ありがとう」
「ん」
やっぱり湊人は優しい。
衰えない人通りのなかを駅に向かって二人で歩く。今度はすぐに湊人に手を握られた。
肩にまとった湊人のカーディガンのせいで、いつもより彼の匂いを濃く感じる。
甘くて爽やかな香りに、あの時、眼前に迫ってきた湊人の顔と、口づけられた感触が蘇る。
心臓が忙しない。
「顔赤いけど、どうした?」
「別に、なんでもないよ」
湊人に覗き込まれて、いよいよ心臓がパンクしてしまいそうになる。
目を見返せなくて、思わず視線を逸らした。
「ふーん。もしかして……」
湊人がずいっと顔を近づけてきた。逸らした目線の先に、彼の唇があって。
「さっきのこと、思い出してた?」
彼の薄いの唇がゆっくり言葉を吐き出す。
声色からして、絶対おもしろがっている。
頬が熱い。
「そんなんじゃないから」
私は湊人から顔を背けた。本当にこんなことするなんて、どういうつもりなのだろう。
「やっぱりもう一回したかったとか?」
「もう! なんでそんなこと言うのよ!」
人の悪い笑顔を浮かべている湊人が憎たらしい。
こんな年上のおばさんをからかって何が楽しいのだ。
「でも、俺のこと好きだろ?」
おもしろそうに、愉快そうに、湊人はさらりとそう言った。
私は体中の血液が沸騰するんじゃないかと思うほど、全身がかーっと熱くなる。
「なにそれ! この前は、俺のこと、嫌か? なんて言ってたくせに、なによ!」
「あれは結衣の様子がおかしかったから。俺にハグされて嫌がる女なんて、そういないぜ?」
爆弾発言。
久しぶりの湊人のナルシストっぷりに開いた口が塞がらない。
冗談めかして言っているけれど、どんなにイケメンでも拒む人がいないなんて、あるわけがないし。
どう生きてきたら、こんなに自信家になれるのよ。
一刻も早く劇場から出て、さっきのあれはなんだったの? と湊人に問いただしたい。
それなのに、湊人は席を立とうとしない。まばらだった観客は、劇場が明るくなる頃には誰もいなくなっていた。
湊人が横で欠伸をしながら伸びをしている。
「んー。思ったより退屈だったな?」
平然と感想を求められ、私は退場を待たずにまくしたてる。
「そんなことより、さっきのって」
「なに? ふたりっきりだし、もう一回したい?」
早口な私の言葉を遮って、悪戯っぽく口角を上げる湊人に耳が熱くなった。
「バカ!」
思わず口をついて出た短絡的な罵りにも、湊人は愉快そうに笑っている。
「でも、この前、もうしばらくこのままでいいって言ったのに悪かった」
「そうだよ。なんで急にこんなこと」
「だって結衣がビビるところを見たくてこの映画を選んだのに、お前、全然怖がらねぇんだもん」
ロビーでのやけに楽しそうだったあの態度はそういうことだったのか。湊人の子供じみた魂胆が分かって、ちょっと呆れる。
「だからって」
「しかも、俺のこと笑ったろ。さっきのはそのおかえしな」
私の文句を封じこめて、勝手なことを言うと湊人はさっさと立ち上がった。
もやもやした思いを抱えながら、彼に続いて外に向かう。
建物から出ると、夜風がひんやりとして肌寒かった。
半袖一枚で着たことを後悔する。
そんな素振りは見せなかったはずなのに湊人がすぐに羽織っていた黒いカーディガンを脱いで私の肩に優しく被せた。
彼の体温がちょっと残っているような気がして、こそばゆい。
「ありがとう」
「ん」
やっぱり湊人は優しい。
衰えない人通りのなかを駅に向かって二人で歩く。今度はすぐに湊人に手を握られた。
肩にまとった湊人のカーディガンのせいで、いつもより彼の匂いを濃く感じる。
甘くて爽やかな香りに、あの時、眼前に迫ってきた湊人の顔と、口づけられた感触が蘇る。
心臓が忙しない。
「顔赤いけど、どうした?」
「別に、なんでもないよ」
湊人に覗き込まれて、いよいよ心臓がパンクしてしまいそうになる。
目を見返せなくて、思わず視線を逸らした。
「ふーん。もしかして……」
湊人がずいっと顔を近づけてきた。逸らした目線の先に、彼の唇があって。
「さっきのこと、思い出してた?」
彼の薄いの唇がゆっくり言葉を吐き出す。
声色からして、絶対おもしろがっている。
頬が熱い。
「そんなんじゃないから」
私は湊人から顔を背けた。本当にこんなことするなんて、どういうつもりなのだろう。
「やっぱりもう一回したかったとか?」
「もう! なんでそんなこと言うのよ!」
人の悪い笑顔を浮かべている湊人が憎たらしい。
こんな年上のおばさんをからかって何が楽しいのだ。
「でも、俺のこと好きだろ?」
おもしろそうに、愉快そうに、湊人はさらりとそう言った。
私は体中の血液が沸騰するんじゃないかと思うほど、全身がかーっと熱くなる。
「なにそれ! この前は、俺のこと、嫌か? なんて言ってたくせに、なによ!」
「あれは結衣の様子がおかしかったから。俺にハグされて嫌がる女なんて、そういないぜ?」
爆弾発言。
久しぶりの湊人のナルシストっぷりに開いた口が塞がらない。
冗談めかして言っているけれど、どんなにイケメンでも拒む人がいないなんて、あるわけがないし。
どう生きてきたら、こんなに自信家になれるのよ。