映画館のロビーに着くと平日の夜だというのになかなかの混雑ぶりだった。
 チケット購入の端末とドリンクやポップコーンの売り場には列ができている。
 何かここ数日で上映開始された作品でもあったのだろうか。
 ふたりで上映スケジュールの表示されているモニターを見上げた。
 前に私が観たアメコミものの映画もまだ上映されているようだし、ラブストーリーやホラー、時代劇、アニメと色々な作品が羅列してあった。

「結衣は何観たい?」
「あれ? 観たい映画があったわけじゃないの?」

 湊人に問いかけられて、私は首を傾げた。
 何か観たい作品があって、誘ってくれたのかと思っていたのに。

「いや。なんとなく結衣と映画見てぇなって思っただけ」

 湊人が何の気なく言ったのだろう言葉で、私の感情は簡単に急浮上する。
 (あご)を指で撫でながら上映作品のタイトルを目でなぞっている彼は顔色ひとつ変わらない。
 その横顔を見上げながら、ただ私と一緒に過ごしたいと思ってくれたのかなと思うとたまらなく嬉しくなってしまう。
 ついさっきまでの自戒は何の意味もなさない。
 ふたりで映画を観るなんて、ただでさえデートっぽいことを、こんな台詞付きで。
 湊人は格好良いし一目惚れされることもかなり多いだろうけれど、もしも気安く触れたり、こんな殺し文句を意識せずに言っているとしたら。
 きっと彼には、さゆみたいに分かりやすくつきまとうファンだけでなく、かなりの数のファンがいるだろう。罪作りな男だ。
 だけど、願わくば。
 こういうことをするのが私にだけだったらいいなと、こっそり思った。

「結衣が観たいのがあれば、それにしようぜ」
「そうだなぁ……」

 決めかねて、うーんと唸ると湊人が「何もないなら、あれな」と言って近くの壁に貼ってあるポスターを親指で指し示した。