『今度の木曜、仕事早く上がれるから、レイトショーで映画観に行こうぜ』

 お台場での一件があった三日後、湊人から何事もなかったようにメッセージが届いた。
 スマホのディスプレーに湊人の名前でメッセージの着信を知らせる通知が出るだけで、脈拍がやたらと早くなる。
 あれから、私の頭の中では負の感情がぐるぐると渦巻いていた。
 あんな変な態度をとってしまって、嫌われたかもしれない。
 気まずくなってしまったかもしれない。
 面倒くさい女だと思われたかもしれない。
 もう会ってもらえないかもしれない。
 心が不安定に揺れて、連絡してみようかするまいか悩んだりもした。
 でも返信がこなかったらと思うと、それがまた怖くて何もアクションを起こせずにいた。
 そもそも、こんな年上の女が湊人に恋心を抱いてしまった以上、自分から連絡してガツガツしているように思われるのも恥ずかしい。

 とことんネガティブになって、しばらくカタツムリのようにベッドの上で布団にもぐって過ごしていた。
 湊人からのお誘いのメッセージは以前と何も変わらない。
 変に意識してしまっていたのは、私だけだったのかな。
 彼のその普通の態度を思わせるメッセージに、嬉しいような寂しいような複雑な気持ちになった。
 それでも、正直、湊人に会えると思うと落ち込んでいた気持ちが浮上する。
 私は極力、前のめりになっていると悟られないように、あっさりした文面を心がけながら返信した。

『了解。時間が分かったら、また連絡してね』

 この十七文字を送ることに決めるまで、きっかり三十分を費やした。
 年甲斐もなく、恋するティーンエイジャーみたいになっている自分に呆れる。
 

 約束の木曜日。
 私たちはいつも通り、美容院のビルの前で待ち合わせた。
 近頃、ようやく夜は暑さも落ち着き、過ごしやすくなってきている。
 半袖のTシャツにロングスカートで出かけてきたけれど、少し肌寒いくらいだ。

 エレベーターの扉が開いて、湊人が出てきた。
 今日は湊人ガールズを二人従えている。
 前にも増して髪がさらさらになったさゆと、金髪に近いような明るい髪をした派手な印象の女の子。
 湊人よりも、さゆが先に私に気付いて手を振ってきた。
 花柄シフォンのワンピースの裾が風でふわりと揺れる。彼女の行動は相変わらず読めない。

「わー、結衣さん、こんばんは!」

 湊人もこっちに気付いて、彼女たちに見えないように私に顔をしかめて見せた。

「こんばんは」

 私が答えると彼女はご丁寧にも「今日はトリートメントとヘッドスパをしてもらいに来たんですよぉ」と、語尾を延ばして説明してくれた。
 女の子はさゆから私の話を聞いているのか、彼女と目配せをして私に会釈する。
 この子はさゆとは違い大人しいタイプのようで、それ以上、何も言おうとはしなかった。