減ってしまった体重は、もう完全に戻っただろうか。
今日はそう思うくらい、肉も野菜も焼きそばもたくさん食べた。
巨大なマシュマロを串に刺して炙ったアメリカンな焼きマシュマロも、女性陣ではしゃぎながらいただいた。
湊人は「食いすぎじゃねえ?」と言いつつも、焼きあがった肉やなんかを逐一運んできてくれた。
青空の下で食べるご飯とお酒は美味しくて、元気だった頃の食欲を完全に取り戻させてくれた。
夕方には解散になったので、会場を後にする前に店長夫婦にもう一度挨拶をしに行った。
アルコールで顔を赤くして午前中以上に陽気になっている店長と、それをたしなめつつも見守っている奥さんがとても仲の良い素敵なご夫婦に見える。
「今日は楽しかったです。ありがとうございました」
「結衣さんにお会いできてよかったよ。今後とも湊人のこと、よろしくお願いしますね!!」
「ごめんなさいね。この人、酔っ払っちゃって。これでも、いつもはもう少しまともなのよ。またお店にも来てやってくださいね」
撤収作業が終わったというのに缶ビールを片手にへらへらする店長と苦笑いする奥さんにそんなことを言われて、私は嬉しいような申し訳ないような複雑な気持ちだった。
私は本当は湊人の恋人でもなんでもない。
こんな良い人たちに嘘をついてしまっている。
騙すようなことをしてよかったのか、少し罪悪感を感じた。
でも湊人の顔見知りみんなに私を恋人役の番犬ですと言って回るのも、それはそれでおかしい気もする。
私は店長たちに曖昧に応えて、心の中でこうするしかなかったのかな、とひとりごちた。
湊人はそんな私の気持ちを知ってか知らずか「またこういう会があったら、彼女と参加させてもらいます」なんてにこやかに話している。
そんなこと、あるんだろうか。
この先ずっと湊人との関係が続いていくなんて保障はない。
友達として付き合っていきたいけれど、もし湊人に本当に恋人ができたら?
私はそのとき、きっとお払い箱で、もう会う必要もなくなるのだろう。
私の隣で、店長の冗談に可笑しそうに笑う湊人の横顔を見上げていると、胸がぎゅっと締め付けられた。
年齢がもう少し近かったら。同い年だったら。同じ趣味や職業だったら。
もしそうだったら、ちゃんとした友達になれたかもしれないのに。
本当に一緒に蛍を見に行くこともできたのかもしれないのに。
こんなに年の差があって何の共通点もない私と湊人では、きっと普通の友達になんてなれやしない。
友人のひとりで、弟のようなものだと自分に言い聞かせていたけれど、きっとそれ以前の問題だ。
私と湊人を繋いでいるのは、恋人だという嘘だけ。
嘘の上に成り立っている関係なのだ。
そんな関係に果たして未来などあるのか。
「湊人くん!」
店長夫婦に会釈して会場の入り口に向かう私たちに、さゆが駆け寄ってくる。
ふわっと彼女の声に負けないくらいの甘ったるい香水のにおいが漂ってきた。
淡い桃色のワンピースの裾を揺らして軽やかに走る彼女を見て、女子力高いなぁと尊敬の念すら覚える。
やっぱり本来なら、湊人はこういう女の子が隣にいる方がしっくりくると思った。
「橘さん。今日はお疲れ様でした」
作り笑いの顔で応える湊人に、さゆは男好きのする、はにかむような笑顔を浮かべた。
「プライベートで湊人くんに会えて嬉しかった! また来週あたりお店に行くね」
ストレートな物言いで、この子にこんなことを言われて大抵の男性は悪い気はしないだろう。
彼女にある若さも物怖じしない積極性も女子力も、私にはない。
湊人を窺い見ると、表情を変えずに「お待ちしております」と答えていた。
本心では実は嬉しかったりして。
もしそうだとしたら私が恋人役をやる必要もないのだから、そんなことあるはずないのに、なんだか胸が痛い。
「じゃぁ、結衣さんもまた遊んでくださいね~! 湊人くん、バイバイ」
さゆは笑顔で心にもないことを言って去っていく。
彼女の華奢な背中を見送ると、息が詰まるようになっていたことに気付いた。
さっきから、おかしいな。
自分の感情がよく分からなくて、私は余計な思考を打ち消すように深く息を吐いた。
今日はそう思うくらい、肉も野菜も焼きそばもたくさん食べた。
巨大なマシュマロを串に刺して炙ったアメリカンな焼きマシュマロも、女性陣ではしゃぎながらいただいた。
湊人は「食いすぎじゃねえ?」と言いつつも、焼きあがった肉やなんかを逐一運んできてくれた。
青空の下で食べるご飯とお酒は美味しくて、元気だった頃の食欲を完全に取り戻させてくれた。
夕方には解散になったので、会場を後にする前に店長夫婦にもう一度挨拶をしに行った。
アルコールで顔を赤くして午前中以上に陽気になっている店長と、それをたしなめつつも見守っている奥さんがとても仲の良い素敵なご夫婦に見える。
「今日は楽しかったです。ありがとうございました」
「結衣さんにお会いできてよかったよ。今後とも湊人のこと、よろしくお願いしますね!!」
「ごめんなさいね。この人、酔っ払っちゃって。これでも、いつもはもう少しまともなのよ。またお店にも来てやってくださいね」
撤収作業が終わったというのに缶ビールを片手にへらへらする店長と苦笑いする奥さんにそんなことを言われて、私は嬉しいような申し訳ないような複雑な気持ちだった。
私は本当は湊人の恋人でもなんでもない。
こんな良い人たちに嘘をついてしまっている。
騙すようなことをしてよかったのか、少し罪悪感を感じた。
でも湊人の顔見知りみんなに私を恋人役の番犬ですと言って回るのも、それはそれでおかしい気もする。
私は店長たちに曖昧に応えて、心の中でこうするしかなかったのかな、とひとりごちた。
湊人はそんな私の気持ちを知ってか知らずか「またこういう会があったら、彼女と参加させてもらいます」なんてにこやかに話している。
そんなこと、あるんだろうか。
この先ずっと湊人との関係が続いていくなんて保障はない。
友達として付き合っていきたいけれど、もし湊人に本当に恋人ができたら?
私はそのとき、きっとお払い箱で、もう会う必要もなくなるのだろう。
私の隣で、店長の冗談に可笑しそうに笑う湊人の横顔を見上げていると、胸がぎゅっと締め付けられた。
年齢がもう少し近かったら。同い年だったら。同じ趣味や職業だったら。
もしそうだったら、ちゃんとした友達になれたかもしれないのに。
本当に一緒に蛍を見に行くこともできたのかもしれないのに。
こんなに年の差があって何の共通点もない私と湊人では、きっと普通の友達になんてなれやしない。
友人のひとりで、弟のようなものだと自分に言い聞かせていたけれど、きっとそれ以前の問題だ。
私と湊人を繋いでいるのは、恋人だという嘘だけ。
嘘の上に成り立っている関係なのだ。
そんな関係に果たして未来などあるのか。
「湊人くん!」
店長夫婦に会釈して会場の入り口に向かう私たちに、さゆが駆け寄ってくる。
ふわっと彼女の声に負けないくらいの甘ったるい香水のにおいが漂ってきた。
淡い桃色のワンピースの裾を揺らして軽やかに走る彼女を見て、女子力高いなぁと尊敬の念すら覚える。
やっぱり本来なら、湊人はこういう女の子が隣にいる方がしっくりくると思った。
「橘さん。今日はお疲れ様でした」
作り笑いの顔で応える湊人に、さゆは男好きのする、はにかむような笑顔を浮かべた。
「プライベートで湊人くんに会えて嬉しかった! また来週あたりお店に行くね」
ストレートな物言いで、この子にこんなことを言われて大抵の男性は悪い気はしないだろう。
彼女にある若さも物怖じしない積極性も女子力も、私にはない。
湊人を窺い見ると、表情を変えずに「お待ちしております」と答えていた。
本心では実は嬉しかったりして。
もしそうだとしたら私が恋人役をやる必要もないのだから、そんなことあるはずないのに、なんだか胸が痛い。
「じゃぁ、結衣さんもまた遊んでくださいね~! 湊人くん、バイバイ」
さゆは笑顔で心にもないことを言って去っていく。
彼女の華奢な背中を見送ると、息が詰まるようになっていたことに気付いた。
さっきから、おかしいな。
自分の感情がよく分からなくて、私は余計な思考を打ち消すように深く息を吐いた。