改めて、私とは別次元を生きている人だなと思ってしまった。
湊人にすごいねと言ったら、また「この顔だし?」とでも言うだろうか。
さゆはちょっと唇をとがらせて、ふてくされたような表情をしている。
「結衣さんも心配じゃないですか? 誘惑が多くて」
心配?
私は本物の恋人ではないけれど。本物の恋人だったら、どうだろう。
今までの人生で湊人ほどモテる男性と交際したことはない。
けれど、浮気をされてしまった経験ならある。
誘惑が多いということは、浮気のチャンスが多いということと同義だ。
胸の奥がざわざわする。
「信じてますから」
明に浮気される前だったら、きっとこう言えただろう。
嘘くさくはないかと思いながら、口にすると心なしか声が震えていた。
そもそも、本当の恋人ではないのだから真剣に考える必要はないのだ。
それなのに、湊人が別の人と浮気することを想像してしまって気持ちが冷え込んでいく。
私は膝の上に置いた手をぎゅっと握って、その気持ち悪い妄想を無理やり心の奥に仕舞い込んだ。
「大人なんですねー。やっぱり人生経験の多い人は違うなぁ」
感心したような言い方だけど、言外にまたおばさんと言われている気がして引っかかった。
この子は温厚かつ平和的に話しかけてきたくせに、結局は私に喧嘩を売りたいだけなのか。そう思っていたら、さゆは決定的な一言を満面の笑みで言い放った。
「でも、私、諦めるつもりないんで」
清々しいくらいの宣戦布告。
偽者の恋人だって喧嘩を吹っかけられたら腹が立つのに、さゆのみなぎる自信とガッツが眩しくすら感じる。
私にはないものを、彼女は持っている。
湊人はこんな女の子がそばにいて、なぜ冴えないしょぼくれたおばさんの私を恋人役に選んだのだろう。
確認するのが怖くて考えないようにしていた疑問が、彼女のせいで頭をもたげる。
「わりぃ、おまたせ」
そこで湊人が缶ビールを手にテントに入ってきたので、彼女と二人きりという地獄のような時間は終わりを告げた。
彼はサユを目視した瞬間、営業スマイルになる。
反対に彼女は私たちの服装を見比べて一瞬、露骨に不満そうな顔をした。
「こんにちは。いらっしゃってたんですね」
「うん、隼大くんが友達として招待してくれて。湊人くんも来るだろうなと思って、会いたかったからお願いしちゃった」
隼大くんというのは、先ほど肉焼き係の中にいたハタチくらいのアシスタントの子だ。
いかにもうぶそうなタイプで、きっとさゆの色仕掛けに堕ちたのだろうなと想像できた。
口ぶりからして、湊人も彼女が来ることは知らなかったのかもしれない。
それでは何故、私は今日呼ばれたのだろう。
先輩の美容師は女性だけれど既婚者だったし、特に恋人を紹介する必要もなかったのではないか。
相変わらず、湊人の考えてることは分からない。
でも、もしかしたら、となんとも都合の良い一つの可能性が頭に浮かんでしまった。
もしかしたら単純に、私を外に連れ出してくれているのではないか。
部屋にこもりきりにならないように、楽しげなイベントに誘ってくれたのではないか。
湊人の私に対する思いやり。
もしそうだとしたら、と考えると胸の奥の方がむずむずした。
さゆに猛アピールされている湊人を眺めながら、でもそんな勘違いしてはいけないと自分に言い聞かせる。
きっと同伴者がいないと気まずかったとか、そんなところだ。
そうでも思わないと、頬が緩んでしまいそうだった。
湊人にすごいねと言ったら、また「この顔だし?」とでも言うだろうか。
さゆはちょっと唇をとがらせて、ふてくされたような表情をしている。
「結衣さんも心配じゃないですか? 誘惑が多くて」
心配?
私は本物の恋人ではないけれど。本物の恋人だったら、どうだろう。
今までの人生で湊人ほどモテる男性と交際したことはない。
けれど、浮気をされてしまった経験ならある。
誘惑が多いということは、浮気のチャンスが多いということと同義だ。
胸の奥がざわざわする。
「信じてますから」
明に浮気される前だったら、きっとこう言えただろう。
嘘くさくはないかと思いながら、口にすると心なしか声が震えていた。
そもそも、本当の恋人ではないのだから真剣に考える必要はないのだ。
それなのに、湊人が別の人と浮気することを想像してしまって気持ちが冷え込んでいく。
私は膝の上に置いた手をぎゅっと握って、その気持ち悪い妄想を無理やり心の奥に仕舞い込んだ。
「大人なんですねー。やっぱり人生経験の多い人は違うなぁ」
感心したような言い方だけど、言外にまたおばさんと言われている気がして引っかかった。
この子は温厚かつ平和的に話しかけてきたくせに、結局は私に喧嘩を売りたいだけなのか。そう思っていたら、さゆは決定的な一言を満面の笑みで言い放った。
「でも、私、諦めるつもりないんで」
清々しいくらいの宣戦布告。
偽者の恋人だって喧嘩を吹っかけられたら腹が立つのに、さゆのみなぎる自信とガッツが眩しくすら感じる。
私にはないものを、彼女は持っている。
湊人はこんな女の子がそばにいて、なぜ冴えないしょぼくれたおばさんの私を恋人役に選んだのだろう。
確認するのが怖くて考えないようにしていた疑問が、彼女のせいで頭をもたげる。
「わりぃ、おまたせ」
そこで湊人が缶ビールを手にテントに入ってきたので、彼女と二人きりという地獄のような時間は終わりを告げた。
彼はサユを目視した瞬間、営業スマイルになる。
反対に彼女は私たちの服装を見比べて一瞬、露骨に不満そうな顔をした。
「こんにちは。いらっしゃってたんですね」
「うん、隼大くんが友達として招待してくれて。湊人くんも来るだろうなと思って、会いたかったからお願いしちゃった」
隼大くんというのは、先ほど肉焼き係の中にいたハタチくらいのアシスタントの子だ。
いかにもうぶそうなタイプで、きっとさゆの色仕掛けに堕ちたのだろうなと想像できた。
口ぶりからして、湊人も彼女が来ることは知らなかったのかもしれない。
それでは何故、私は今日呼ばれたのだろう。
先輩の美容師は女性だけれど既婚者だったし、特に恋人を紹介する必要もなかったのではないか。
相変わらず、湊人の考えてることは分からない。
でも、もしかしたら、となんとも都合の良い一つの可能性が頭に浮かんでしまった。
もしかしたら単純に、私を外に連れ出してくれているのではないか。
部屋にこもりきりにならないように、楽しげなイベントに誘ってくれたのではないか。
湊人の私に対する思いやり。
もしそうだとしたら、と考えると胸の奥の方がむずむずした。
さゆに猛アピールされている湊人を眺めながら、でもそんな勘違いしてはいけないと自分に言い聞かせる。
きっと同伴者がいないと気まずかったとか、そんなところだ。
そうでも思わないと、頬が緩んでしまいそうだった。