湊人が戻ってきたので、店長夫婦と別れてテント内に入る。
中には大きな木製のテーブルとローソファーが二つずつ設置されていて、テントの天井部分にはガーランドが飾られていた。
お洒落れな空間に胸が躍る。
すると、またすぐに湊人が「飲み物取ってくる」と言って出て行ってしまった。
手持ち無沙汰になってソファーに座ってみると、ふかふかの柔らかいシートに体が沈みこむ。
今時のバーベキュー場ってすごいなぁ。
感心しきってキョロキョロしていると、目の前のソファーに誰かが座った。
「こんにちはぁ」
明るい栗色の髪をふわふわ巻いた、色の白い華奢な女性が笑顔で私を見ている。
黒目がちなあどけない瞳に赤いグロスを塗った唇がアンバランスなのに魅力的で。
きっとすごくモテるだろうな。
私も挨拶を返すと、彼女の艶々した唇が「お久しぶりです」と言う。
そこで私は湊人に初めて彼女役を仰せつかった日のことを思い出した。
あの時、ビルの前で湊人を囲んでいた女の子のうちの一人が彼女ではなかったか。
状況がうまく飲み込めず混乱していたため顔まではっきりとは覚えていなかったけれど、あの時、この甘ったるい声が私をおばさんと形容した気がする。
私は内心、戦々恐々としながら「お久しぶりです」と笑顔で返した。
オウム返しになってしまっているし、顔がひきつっていないだろうかと心配になる。すると彼女が口角をあげたまま眉根を寄せて頭を下げた。
「この間はちょっと動揺しちゃって。失礼しました。私、橘さゆといいます」
「それはご丁寧にどうも……。山本結衣です」
どうしてこの子が参加しているんだろう。
この会は従業員とその家族や恋人などの近しい人間のみの集まる会ではないのか。
それともこの子が来るのを知っていて、湊人は番犬として私を連れてきたのだろうか。
「湊人くんと一緒に来たんですか?」
ニコニコしながら彼女は会話を続ける。
私としては今すぐにでも立ち去りたいところだったけれど、不自然に逃げるわけにもいかない。
湊人が早く戻ってきてくれることを祈った。
彼女がどういうつもりか分からないけれど、できるだけ刺激しないようにするしかない。
「はい。職場主催だからって連れてこられました」
「いいなぁ、彼女さんは。こういう公の場所に湊人くんの恋人として来られるなんて羨ましいです」
何て返していいか分からなくて、いえいえと四文字だけ返したのに彼女の口数は多い。
「湊人くん、あんなにイケメンだし優しいし、そんな人の彼女だなんてきっと鼻が高いでしょうね」
「そんなことは……」
「どんな魔法を使ったんですか? 湊人くん、サユがどんなに押しても連絡先すら教えてくれなかったのに」
彼女の瞳に好戦的な色がちらついた気がして、変な汗が噴き出してきた。
圧倒されて力なく空笑いをすることしかできない。
ここでめらめらと闘志を燃やせるほど、湊人との付き合いは長くはないし、本物の恋人でもないのだ。
「湊人くん、ちょっと前に雑誌に載ったんですよ。イケメン美容師だって。それで最近、ライバルも増えて焦ってたのに、まさかもう彼女がいたなんて」
雑誌に載ったなんて初耳だ。
やっぱりあのルックスだし、雑誌に載ったとなると更に人気も出ただろう。
中には大きな木製のテーブルとローソファーが二つずつ設置されていて、テントの天井部分にはガーランドが飾られていた。
お洒落れな空間に胸が躍る。
すると、またすぐに湊人が「飲み物取ってくる」と言って出て行ってしまった。
手持ち無沙汰になってソファーに座ってみると、ふかふかの柔らかいシートに体が沈みこむ。
今時のバーベキュー場ってすごいなぁ。
感心しきってキョロキョロしていると、目の前のソファーに誰かが座った。
「こんにちはぁ」
明るい栗色の髪をふわふわ巻いた、色の白い華奢な女性が笑顔で私を見ている。
黒目がちなあどけない瞳に赤いグロスを塗った唇がアンバランスなのに魅力的で。
きっとすごくモテるだろうな。
私も挨拶を返すと、彼女の艶々した唇が「お久しぶりです」と言う。
そこで私は湊人に初めて彼女役を仰せつかった日のことを思い出した。
あの時、ビルの前で湊人を囲んでいた女の子のうちの一人が彼女ではなかったか。
状況がうまく飲み込めず混乱していたため顔まではっきりとは覚えていなかったけれど、あの時、この甘ったるい声が私をおばさんと形容した気がする。
私は内心、戦々恐々としながら「お久しぶりです」と笑顔で返した。
オウム返しになってしまっているし、顔がひきつっていないだろうかと心配になる。すると彼女が口角をあげたまま眉根を寄せて頭を下げた。
「この間はちょっと動揺しちゃって。失礼しました。私、橘さゆといいます」
「それはご丁寧にどうも……。山本結衣です」
どうしてこの子が参加しているんだろう。
この会は従業員とその家族や恋人などの近しい人間のみの集まる会ではないのか。
それともこの子が来るのを知っていて、湊人は番犬として私を連れてきたのだろうか。
「湊人くんと一緒に来たんですか?」
ニコニコしながら彼女は会話を続ける。
私としては今すぐにでも立ち去りたいところだったけれど、不自然に逃げるわけにもいかない。
湊人が早く戻ってきてくれることを祈った。
彼女がどういうつもりか分からないけれど、できるだけ刺激しないようにするしかない。
「はい。職場主催だからって連れてこられました」
「いいなぁ、彼女さんは。こういう公の場所に湊人くんの恋人として来られるなんて羨ましいです」
何て返していいか分からなくて、いえいえと四文字だけ返したのに彼女の口数は多い。
「湊人くん、あんなにイケメンだし優しいし、そんな人の彼女だなんてきっと鼻が高いでしょうね」
「そんなことは……」
「どんな魔法を使ったんですか? 湊人くん、サユがどんなに押しても連絡先すら教えてくれなかったのに」
彼女の瞳に好戦的な色がちらついた気がして、変な汗が噴き出してきた。
圧倒されて力なく空笑いをすることしかできない。
ここでめらめらと闘志を燃やせるほど、湊人との付き合いは長くはないし、本物の恋人でもないのだ。
「湊人くん、ちょっと前に雑誌に載ったんですよ。イケメン美容師だって。それで最近、ライバルも増えて焦ってたのに、まさかもう彼女がいたなんて」
雑誌に載ったなんて初耳だ。
やっぱりあのルックスだし、雑誌に載ったとなると更に人気も出ただろう。