バーベキュー場は私が想像していたよりずっと豪華で、さっきまでの憂鬱な気持ちが一気に吹き飛んだ。
青空の下、広々としたスペースに屋根のみのテントのようなものがいくつも設置され、テーブルと椅子がずらっと並んでいる。
その向こうには東京湾が見渡せて、隣にいる湊人も珍しく目を輝かせて辺りを見回している。
入り口のそばにはプールがあって子供たちが楽しそうに水遊びに興じていた。
はしゃぎ声が辺りに響いている。
世間は夏休みだからか、平日でもなかなかの客入りなようだ。
私たちが案内されたのは、パーティー用のスペースだという長方形の幌馬車のような大きなテントだった。
もうすでに集まっている面々で準備を始めていたのか、何人かテントの外にあるグリルのまわりを取り囲んでいる。
そのそばにハンモックが置いてあったので寝転んでみたくなった。
私は湊人について挨拶をしてまわった。
二十人くらいが参加していて、一人で来た人から家族や恋人同伴の人たちまで様々だ。
たいていの人が湊人と私のペアルックをからかった。
美容師のなかでもスタイリストは店長と湊人の他に、湊人の二年先輩だという女性が一人と後輩だという男性が一人いるのみで、あとの数名はアシスタントだった。
アシスタントの中には専門学校を卒業したばかりの人もいて、当たり前のことだけれど湊人よりも若いのだと思うとくらくらする。
肉を焼く係りを買って出た彼らの学生のようなはしゃぎぶりが懐かしい。
ちょっと炭から火柱が上がるだけで飛び退って歓声をあげている。
特にサロンの店長だというアロハシャツを着た髭面の陽気な男性は、私たちの格好を見て、会場中に聞えるのではなかろうかと思うほどの盛大な笑い声をあげた。
彼とは反対に上品で感じの良い奥さんが「そんなに笑ったら悪いわよ」と店長をたしなめてくれた。
二人とも三十代後半くらいだろうか。
湊人とより、私との方が年齢が近そうだ。
私は自己紹介しながら、とんでもない年上の彼女と付き合ってるんだなと思われているだろうかと考えていた。
湊人は堂々と私を紹介し、彼女かと聞かれれば当たり前のようにそうだと答える。
おどおどしても仕方ないので私もできるだけにこやかに話を合わせた。
そういえば付き合ってどれくらいなのかとか、出会いはどこだとか設定をまったく練ってこなかった。
――大丈夫かな。
不安になって湊人を窺い見ると、店長の問いにしれっとした顔で適当なことを言っている。
口からでまかせとはこのことだ。
私は笑顔の裏で、湊人が言うことを聞き漏らすまいと気を遣った。
あとで話の帳尻が合わなくなると困る。
「お前、彼女がいるなんて全然言ってなかったじゃねぇか。いつから付き合ってるんだよ?」
「二年前くらいですかね」
「けっこう長えじゃねえか。それで、馴れ初めくらいは聞かせてくれるんだろうな?」
店長が目を細めてニヤニヤしている。湊人は頭をかいて、ちょっと言いにくそうに切り出した。演技とは思えない。すごい。
「あー……言いにくいんですけど、実はお客さんで」
その言葉に店長が目を丸くして「おいおい、やめてくれよ。まぁ、うちもそうなんだけどな」と奥さんを親指でくいっと指し示した。
「しかし水臭いじゃねえか。言えよー、そういうことは」
「すいません。結婚するときはすぐ報告しますから。な、結衣」
爽やかな笑顔で私を見る湊人が突然さらっとそんなことを言うから、鼓動が跳ね上がった。
ワンテンポ遅れてしまったけれど、なんとか「そうだね。いつになるかなぁ」なんて私も応える。
どうしてこの男はわざわざこんなことを言うのかな。
不意打ちでドギマギさせられて、恨み言のひとつでも言ってやりたい気分だ。
湊人には、きっとそんなつもりは一ミリだってないのだろうけれど。
青空の下、広々としたスペースに屋根のみのテントのようなものがいくつも設置され、テーブルと椅子がずらっと並んでいる。
その向こうには東京湾が見渡せて、隣にいる湊人も珍しく目を輝かせて辺りを見回している。
入り口のそばにはプールがあって子供たちが楽しそうに水遊びに興じていた。
はしゃぎ声が辺りに響いている。
世間は夏休みだからか、平日でもなかなかの客入りなようだ。
私たちが案内されたのは、パーティー用のスペースだという長方形の幌馬車のような大きなテントだった。
もうすでに集まっている面々で準備を始めていたのか、何人かテントの外にあるグリルのまわりを取り囲んでいる。
そのそばにハンモックが置いてあったので寝転んでみたくなった。
私は湊人について挨拶をしてまわった。
二十人くらいが参加していて、一人で来た人から家族や恋人同伴の人たちまで様々だ。
たいていの人が湊人と私のペアルックをからかった。
美容師のなかでもスタイリストは店長と湊人の他に、湊人の二年先輩だという女性が一人と後輩だという男性が一人いるのみで、あとの数名はアシスタントだった。
アシスタントの中には専門学校を卒業したばかりの人もいて、当たり前のことだけれど湊人よりも若いのだと思うとくらくらする。
肉を焼く係りを買って出た彼らの学生のようなはしゃぎぶりが懐かしい。
ちょっと炭から火柱が上がるだけで飛び退って歓声をあげている。
特にサロンの店長だというアロハシャツを着た髭面の陽気な男性は、私たちの格好を見て、会場中に聞えるのではなかろうかと思うほどの盛大な笑い声をあげた。
彼とは反対に上品で感じの良い奥さんが「そんなに笑ったら悪いわよ」と店長をたしなめてくれた。
二人とも三十代後半くらいだろうか。
湊人とより、私との方が年齢が近そうだ。
私は自己紹介しながら、とんでもない年上の彼女と付き合ってるんだなと思われているだろうかと考えていた。
湊人は堂々と私を紹介し、彼女かと聞かれれば当たり前のようにそうだと答える。
おどおどしても仕方ないので私もできるだけにこやかに話を合わせた。
そういえば付き合ってどれくらいなのかとか、出会いはどこだとか設定をまったく練ってこなかった。
――大丈夫かな。
不安になって湊人を窺い見ると、店長の問いにしれっとした顔で適当なことを言っている。
口からでまかせとはこのことだ。
私は笑顔の裏で、湊人が言うことを聞き漏らすまいと気を遣った。
あとで話の帳尻が合わなくなると困る。
「お前、彼女がいるなんて全然言ってなかったじゃねぇか。いつから付き合ってるんだよ?」
「二年前くらいですかね」
「けっこう長えじゃねえか。それで、馴れ初めくらいは聞かせてくれるんだろうな?」
店長が目を細めてニヤニヤしている。湊人は頭をかいて、ちょっと言いにくそうに切り出した。演技とは思えない。すごい。
「あー……言いにくいんですけど、実はお客さんで」
その言葉に店長が目を丸くして「おいおい、やめてくれよ。まぁ、うちもそうなんだけどな」と奥さんを親指でくいっと指し示した。
「しかし水臭いじゃねえか。言えよー、そういうことは」
「すいません。結婚するときはすぐ報告しますから。な、結衣」
爽やかな笑顔で私を見る湊人が突然さらっとそんなことを言うから、鼓動が跳ね上がった。
ワンテンポ遅れてしまったけれど、なんとか「そうだね。いつになるかなぁ」なんて私も応える。
どうしてこの男はわざわざこんなことを言うのかな。
不意打ちでドギマギさせられて、恨み言のひとつでも言ってやりたい気分だ。
湊人には、きっとそんなつもりは一ミリだってないのだろうけれど。