その日、私は早朝からクローゼットを前に頭を悩ませていた。
湊人に職場主催のバーベキューに誘われて、どんな洋服を着ていったらいいのか分からなかったからだ。
絶対に来いという彼のメッセージに、職場の人の前でまで彼女役なんてできないよと返信しても、業務命令という四文字と集合時間や会場の詳細だけが送られてきた。
相変わらずの強引さで、私はそれ以上の抵抗を諦めた。湊人に対しては、どんな抗議をしても無駄だ。
無視して行かないという選択肢もあるけれど、それで湊人との関係が切れてしまうのは嫌だった。
あくまでも私が立ち直るのに手を貸してくれている友人のひとりとして、今後も彼と関わっていきたい。
だから渋々、バーベキューに参加することにした。
バーベキュー自体、子供の頃に家族と家のそばの川原でしたことがあるくらいで、大人になってから参加するのは初めてだ。
特別考えたことはなかったけれど、自分の趣味はインドアなものばかりだなと気付く。
バーベキューとかキャンプとか登山とか、ほとんどしたことがない。
どんな服装がTPOに合うのだろうか。
Tシャツとデニムパンツではラフすぎやしないか。
私はインターネットの検索エンジンでバーベキューにおすすめコーディネートと検索してみた。
女性むけファッション誌のホームページに掲載されていた、いくつかの画像とクローゼットの中身を見比べる。
手持ちでも真似できそうな格好を見つけて、ボーダーのTシャツにベージュの膝下丈のタイトスカートを合わせ、肩にUV効果のある薄手のパーカーを羽織ってみる。
靴は白のスタンスミスを履いていくことに決めた。
お台場のショッピング施設の屋上にあるバーベキュー場らしく、屋根もありそうだったけれど念のためツバが大きめの帽子もかぶる。
年齢的にも子供のいる母親に見えなくもないコーディネートな気がして、何度か鏡の前でまわってみた。
湊人の彼女と紹介されても大丈夫だろうか。
またおばさんだと思われて恥をかきはしないかと不安になった。
そこで、湊人の「おばさんじゃないよ」と言ってくれた声を思い出して、頬が熱くなる。
そんな自分に辟易して、私はため息をついた。
集合時間の十分前に東京テレポート駅の出口で湊人と落ち合う約束だったので、先に地下の改札からエスカレーターで路上に出て待つことにする。
明り取りの天窓のある白くて大きな半円状の出口は、どこか近未来的だ。
そろそろ湊人も来るだろうなとエスカレーターをぼんやり眺めていると、下から上がってくる湊人の頭が見えた。
「湊人」と手を挙げかけて、彼が地上に降り立った瞬間、私は絶句する。
湊人も私を上から下まで見て、うぇっと舌を出した。
「お前なぁ……。ボーダーは人とかぶるかもしれないとか思わなかったのかよ」
「こっちの台詞だよ。どうしよう、帰りたい」
湊人がボーダーのTシャツとベージュのハーフパンツ姿で、げんなりしている。
彼の羽織っているシャツと、私のパーカーまで同じ紺色だ。
ボーダーの幅や間隔だってほとんど一緒で、他人からは完全にコーディネートを合わせてきたかのように見えるだろう。
どう見ても、ペアルック。
湊人はせめてもの抵抗なのか、シャツを脱いで手に持った。
恋人役をやるのは仕方ないこととして、こんなペアルックのバカップルみたいなことをしたかったわけでは断じてない。
これから湊人の職場の人たちに会って、なにを言われるのかと考えただけで恐ろしかった。
「私、どこかで洋服買って着替えて行こうか?」
これから行く店は八階建ての大型のショッピング施設だから、アパレルの店舗だって、きっといくつも入っているはず。
私が苦肉の策でそう言うと、湊人は「俺だってそうしてぇけど、時間に遅れるのもまずいだろ」とため息をついた。
今日も空はどこまでも青く、八月の太陽がかんかんと照りつけている。
私たちはそんな天気と正反対な曇った表情でとぼとぼと会場に向かった。
湊人に職場主催のバーベキューに誘われて、どんな洋服を着ていったらいいのか分からなかったからだ。
絶対に来いという彼のメッセージに、職場の人の前でまで彼女役なんてできないよと返信しても、業務命令という四文字と集合時間や会場の詳細だけが送られてきた。
相変わらずの強引さで、私はそれ以上の抵抗を諦めた。湊人に対しては、どんな抗議をしても無駄だ。
無視して行かないという選択肢もあるけれど、それで湊人との関係が切れてしまうのは嫌だった。
あくまでも私が立ち直るのに手を貸してくれている友人のひとりとして、今後も彼と関わっていきたい。
だから渋々、バーベキューに参加することにした。
バーベキュー自体、子供の頃に家族と家のそばの川原でしたことがあるくらいで、大人になってから参加するのは初めてだ。
特別考えたことはなかったけれど、自分の趣味はインドアなものばかりだなと気付く。
バーベキューとかキャンプとか登山とか、ほとんどしたことがない。
どんな服装がTPOに合うのだろうか。
Tシャツとデニムパンツではラフすぎやしないか。
私はインターネットの検索エンジンでバーベキューにおすすめコーディネートと検索してみた。
女性むけファッション誌のホームページに掲載されていた、いくつかの画像とクローゼットの中身を見比べる。
手持ちでも真似できそうな格好を見つけて、ボーダーのTシャツにベージュの膝下丈のタイトスカートを合わせ、肩にUV効果のある薄手のパーカーを羽織ってみる。
靴は白のスタンスミスを履いていくことに決めた。
お台場のショッピング施設の屋上にあるバーベキュー場らしく、屋根もありそうだったけれど念のためツバが大きめの帽子もかぶる。
年齢的にも子供のいる母親に見えなくもないコーディネートな気がして、何度か鏡の前でまわってみた。
湊人の彼女と紹介されても大丈夫だろうか。
またおばさんだと思われて恥をかきはしないかと不安になった。
そこで、湊人の「おばさんじゃないよ」と言ってくれた声を思い出して、頬が熱くなる。
そんな自分に辟易して、私はため息をついた。
集合時間の十分前に東京テレポート駅の出口で湊人と落ち合う約束だったので、先に地下の改札からエスカレーターで路上に出て待つことにする。
明り取りの天窓のある白くて大きな半円状の出口は、どこか近未来的だ。
そろそろ湊人も来るだろうなとエスカレーターをぼんやり眺めていると、下から上がってくる湊人の頭が見えた。
「湊人」と手を挙げかけて、彼が地上に降り立った瞬間、私は絶句する。
湊人も私を上から下まで見て、うぇっと舌を出した。
「お前なぁ……。ボーダーは人とかぶるかもしれないとか思わなかったのかよ」
「こっちの台詞だよ。どうしよう、帰りたい」
湊人がボーダーのTシャツとベージュのハーフパンツ姿で、げんなりしている。
彼の羽織っているシャツと、私のパーカーまで同じ紺色だ。
ボーダーの幅や間隔だってほとんど一緒で、他人からは完全にコーディネートを合わせてきたかのように見えるだろう。
どう見ても、ペアルック。
湊人はせめてもの抵抗なのか、シャツを脱いで手に持った。
恋人役をやるのは仕方ないこととして、こんなペアルックのバカップルみたいなことをしたかったわけでは断じてない。
これから湊人の職場の人たちに会って、なにを言われるのかと考えただけで恐ろしかった。
「私、どこかで洋服買って着替えて行こうか?」
これから行く店は八階建ての大型のショッピング施設だから、アパレルの店舗だって、きっといくつも入っているはず。
私が苦肉の策でそう言うと、湊人は「俺だってそうしてぇけど、時間に遅れるのもまずいだろ」とため息をついた。
今日も空はどこまでも青く、八月の太陽がかんかんと照りつけている。
私たちはそんな天気と正反対な曇った表情でとぼとぼと会場に向かった。