すぐに運ばれてきたビールで乾杯した。
 湊人と出会ってからお酒を飲むこともほとんどなくなっていたので、久しぶりのビールだった。
 外が暑かったので、喉を流れていく冷たさが嬉しい。

「今日、実家から帰ってきたんだっけ?」

 私は湊人がてきとうに注文した牛肉の盛り合わせを網に載せながら、彼の問いかけに頷く。
 七輪の中で木炭が赤く燃えている。

「結衣の地元って、どんなところ?」
「突然、どうしたの?」
「別に。聞いたことなかったなと思って」

 湊人が私の地元のことに興味を示すなんて思ってもいなかった。
 単なる世間話のひとつかもしれないけれど。
 私はどう説明しようか、しばし考えを巡らす。

「新宿からだと急行で一時間ちょっとくらいかな? 神奈川県の片田舎だよ」
「その距離の場所で田舎ってことはないだろ」
「ううん。実際、畑や田んぼだってあるし。一応、うちから徒歩圏内にJRの駅があるんだけどね、単線だしドアを毎回ボタンで開け閉めするの」

 この前、東京生まれだと話していた湊人は、露骨に驚いた顔をする。

「そんな電車あんのかよ。知らなかった」

 自分から田舎だと説明したくせに、なんだかちょっと恥ずかしくなって何か良いところはないかと考える。
 実際、思春期以降は都会に憧れたし、進学だって都内の大学を選んだ。
 今だって「うちに帰ってきて暮らしたっていいのよ」と母は言ってくれるけれど、地元よりずっと便利な街に住んでいる。
 十代の頃のような憧れはもうなかったけれど、車社会の地元と比べ電車でどこにでも行けてしまうこの場所は純粋に便利だった。
 明と同棲していた今のマンションは一人暮らしには少し広いから、余裕ができたら同じ駅の別の物件に引越そうと考え始めていたくらいだ。
 それでもその便利さと引き換えにペーパードライバー歴は長くなっていた。
 今いきなり運転しろと言われたら、きっとできないと思う。

 湊人が「もーらい」と言って網の上から生焼けのカルビをさらっていく。
 私も牛肉はちょっとレアくらいの方が柔らかくて好きだけれど、さすがに火が通ってなさすぎじゃないかな。
 そう注意しても、湊人はうまいうまいと喜んで食べている。
 彼はいつも運動部の中学生かと思うような食べっぷりで、見ていて気持ちがいい。
 それなのにひょろっとしていて、足首などは私より細いんじゃないだろうか。
 あれから食欲はほとんど戻りつつあったけれど、食べ過ぎないようにしなきゃ。
 私は網の上の肉の七割を湊人に、三割を自分の皿に取り分けた。
 カルビを咀嚼(そしゃく)しながらジョッキに口をつけると、口内が肉の脂とビールの苦味でいっぱいになる。
 先日までのただ酔うために飲んでいただけのアルコールとは全然違う、幸せな感覚に私の顔が自然とほころんだ。