それから私はアメコミヒーローが地球征服を目論む宇宙人と闘う大味なハリウッド作品を観て映画館をあとにした。
 勧善懲悪のストーリーは分かりやすくスカッとさせてくれて好きだ。
 そのまま帰りがけ本屋に立ち寄って、店員のおすすめコーナーに置かれていた小説とファッション誌を買った。
 それだけでなんだか気分が良い。
 見える景色すら、いつもと違って見える気がした。
 趣味で自分らしい生活を取り戻すことも大切だけれど、これからは少しずつでも食事を摂るようにしなくてはならない。
 久しぶりに料理をしてみようか。どんなに気持ちだけ無理やりにでも前向きにしたところで体が資本なのだ。
 もともとそんなにスタイルは良くなかったから痩せた分まるまる元に戻そうとは思わないけれど、人並みに食べる生活には戻さなきゃ。

 私は最寄り駅に着くと駅前のスーパーで食材を買って帰ることにした。
 今日も暑いし、まだ食欲も戻りきっていない。
 なにかさっぱりしたものを作ろう。
 冷蔵庫は空っぽだ。
 食べることを習慣にしていた、お気に入りの銘柄のヨーグルトも買って帰ろうか。
 結局、久しぶりに買い物するとあれもこれもとカゴに入れてしまい、野菜や牛乳、卵なんかでいっぱいのレジ袋が二袋できあがった。
 二人暮らしに慣れていたから、そのときの癖でつい買いすぎたかなとため息がでる。
 そこでもまた思い出の明がひょっこり顔を出しそうになったので、スーパーの自動ドアに映る自分を見て雑念を振り払った。
 きゅっと下唇を噛む。
 もう今までの私じゃない、と何度も自分に言い聞かせた。
 両手に買い物袋を持って歩き始める。
 ここから自宅マンションまでは目と鼻の先だ。
 二十時をまわった夜の駅前は今夜も雑然としている。
 久しぶりの重い荷物に肘から下の腕がちょっと痛い。
 筋肉も落ちてしまったかと、細くなった手首を眺める。
 取り戻さなければならないことは、自分らしさとか食欲以外にも色々ありそうだなと思った。