「そんなにかっこいいなら、一度、ご尊顔(そんがん)を拝んでみたいわ」
「でも自信満々ですごいんだよ。ナルシストを地で行っちゃってるかんじ」
「まぁでも結衣が新しい恋に踏み出せそうでよかったよ」

 私の言葉に大げさなくらいゲラゲラ笑っていた瑠璃が満足げにそんなことを言うから、アイスティーを噴き出しそうになって思いきりむせた。

「そ、そんなんじゃないって」

 慌てる私を見て、瑠璃はまた愉快そうに声をあげて笑う。

「いいじゃん。年下くん。やっぱり失恋を癒すには新しい恋だね」
「もう。こんなおばさんが、おこがましいよ。それに恋愛自体、こりごりだし」
「そう? けどさぁ、好意がなかったら、そんなことしないんじゃない?その子も」
「やめてってば。二回しか会ったこともないんだよ。年の差だけじゃなくて、そもそもそんな要素ないって」

 恥ずかしくなって両頬を手で覆うと熱でもあるのかと思うほど熱くなっていた。
 顔が赤くなっているんだろうと思うと余計に恥ずかしい。
 瑠璃はコーヒーカップの中にミルクを注ぎながら、ちょっと考えて口を開いた。

「じゃぁ、実は前に会ったことがあるとか?」
「まさか。あんな自信家で強引な人、一度会ったら覚えてるはずだよ」

 私がストレートに言うと、瑠璃はまた大きな口を開けて笑う。
 彼女の耳元で大ぶりのピアスが揺れている。
 ターコイズカラーの丸い石。

「それもそうか。とにかく、結衣が少し元気になって良かったよ。ついこの間まで、まさに生ける(しかばね)ってかんじだったもんね」

 茶化してはいるけれど、心から私を気にかけてくれていたことが感じられる。
 その気持ちがとても嬉しく、有難かった。
 瑠璃が居住まいを正して咳払いする。

「それで、ちょっと提案なんだけど……もう少し落ち着いたら、うちの店で働かない? リハビリがてら、週に何度かのアルバイトでいいから」

 瑠璃の突然の申し出に私は驚いて目を見張った。

「私なんかが、いいの?」
「当たり前じゃない。結衣は真面目だし、信用してるもん」

 瑠璃がまっすぐに私を見つめて微笑んだ。

「ありがとう。嬉しい。考えてみる」
「うん。焦らないでいいからね。ちょっと気分転換に働いてみようかなって思えてからでも、全然」

 瑠璃がご主人と営むカフェはやっと経営も軌道にのってきて、繁盛していると聞いていた。
 それでも恐らくもう人手は足りているはずだし、本来であれば同情で人を雇うほど余裕はないはずだ。
  経営というものがそんなに甘くないということは、一企業でOLしかしたことのない私でも分かる。
 それでも瑠璃は全てを失くした私に、社会との接点を取り戻させようとしてくれているのだ。
 気負わせないように、かなり気を遣って言葉を選んでくれたことも伝わってきた。
 良い友人を持ったとしみじみ思う。
 私なんかのために、ここまで言ってくれる人が他にいるだろうか。
 すると彼女は人の悪い笑みを浮かべて言った。

「まぁでも、ちょっと悔しい気もする。結衣を回復傾向にしたのが私じゃなくて、その年下くんなんだもんなぁ」
「またそんなこと言って。……瑠璃の存在にも救われてるよ」

 面と向かって言うのは照れくさかったけれど、せめてもの感謝の気持ちを伝えると瑠璃もまた照れくさそうにはにかんだ。