「うそ! なにその少女漫画みたいな展開!」
お団子頭にからし色のターバンをつけた瑠璃が、テーブルの向こう側で前のめりになって小さく叫んだ。
好奇心でキラキラ輝く猫みたいな目。
お昼時の騒がしい店内で一際大きく響く彼女の声に、隣のテーブルの年配の男性がギョッとしてこちらを睨んだ。
私は苦笑いしながらストローでアイスティーをすする。
汗をかいたグラスの中で、氷がカランと音をたてた。
瑠璃とは大学で知り合ってから、もう十年以上の付き合いになる。
結婚や出産のタイミングの違いで疎遠になってしまうことの多い友人関係のなかで、ライフスタイルが変わっても親交の続く貴重な友人のひとりだ。
明とも面識があり、結婚式では友人代表のスピーチをお願いする予定でいた。
彼と別れてから、一番心配してくれたのも瑠璃だった。
二年前に結婚し、夫婦でカフェを経営し始めたばかりの彼女は、忙しい合間を縫って時間を見つけては定期的に私とランチに出かけてくれている。
今日も瑠璃に連れ出され、下北沢のイタリアンレストランで昼食をとっていた。
雑誌にも掲載されたという話題の店は、イタリア語なのか、すんなりとは読めないおしゃれな名前の看板が掲げられていた。
客の大多数が女性で、店の前に入店待ちの列ができている。
私たちも額に汗を浮かべながら四十分ほど並んで入店した。
味も評判通りらしく、瑠璃が前菜の盛り合わせからメインのポークカツレツまであっという間にたいらげて、しきりに褒めちぎっている。
私は本日のパスタランチだという夏野菜のペスカトーレを注文した。
茄子やトマトがごろごろ入った魚介の旨みたっぷりのソースが細いパスタによく絡んでおいしい。
私が六割がた食べられたのを見て、手放しで褒めてくれる瑠璃。
明と別れてから激減してしまった食欲を、ずっと気にかけてくれていたのだ。
そういえば今日はちゃんと味を感じて楽しむことまでできた。
私にとって大きな変化だ。
彼女は白いスクエアプレートに載せられたデザートのチーズケーキをフォークですくって口に運ぶ。
うんうんと頷いてから、続けた。
「本当に似合ってる、その髪型」
「ありがとう。こんなに短くしたの初めてだよ」
「美容師としての腕は確かだね、その子。それでそれで? また会う予定はあるの?」
瑠璃はなんだか楽しそうに訊いてくる。
明と別れてから陰鬱とした話題しかなかったからだろうか。
学生時代に恋愛に関する密談をしていた時のようなテンションだ。
はしゃぐ彼女を見ていると一瞬、ふたりしてその頃にタイムスリップしたような気がして、可笑しい。
「彼女役、引き受けるって言ったから、たぶん」
「彼女役って笑える。番犬?」
ルリがけらけら笑う。ちょっとひどいけど、言い得て妙だ。
「でもそんなイケメンの彼女役をするなんて、現実であるんだねぇ」
「実際、現実味ないよ。夢だったのかなぁって思うときもあるし」
でも鏡で自分のさっぱりしたヘアスタイルを見るたび、ちゃんと現実のことなのだと実感するのだ。
どうでもいいと思っていたのが嘘のように、不思議とヘアアイロンで毛先を巻いてみたり髪の毛をいじる気力も湧いてきた。
お団子頭にからし色のターバンをつけた瑠璃が、テーブルの向こう側で前のめりになって小さく叫んだ。
好奇心でキラキラ輝く猫みたいな目。
お昼時の騒がしい店内で一際大きく響く彼女の声に、隣のテーブルの年配の男性がギョッとしてこちらを睨んだ。
私は苦笑いしながらストローでアイスティーをすする。
汗をかいたグラスの中で、氷がカランと音をたてた。
瑠璃とは大学で知り合ってから、もう十年以上の付き合いになる。
結婚や出産のタイミングの違いで疎遠になってしまうことの多い友人関係のなかで、ライフスタイルが変わっても親交の続く貴重な友人のひとりだ。
明とも面識があり、結婚式では友人代表のスピーチをお願いする予定でいた。
彼と別れてから、一番心配してくれたのも瑠璃だった。
二年前に結婚し、夫婦でカフェを経営し始めたばかりの彼女は、忙しい合間を縫って時間を見つけては定期的に私とランチに出かけてくれている。
今日も瑠璃に連れ出され、下北沢のイタリアンレストランで昼食をとっていた。
雑誌にも掲載されたという話題の店は、イタリア語なのか、すんなりとは読めないおしゃれな名前の看板が掲げられていた。
客の大多数が女性で、店の前に入店待ちの列ができている。
私たちも額に汗を浮かべながら四十分ほど並んで入店した。
味も評判通りらしく、瑠璃が前菜の盛り合わせからメインのポークカツレツまであっという間にたいらげて、しきりに褒めちぎっている。
私は本日のパスタランチだという夏野菜のペスカトーレを注文した。
茄子やトマトがごろごろ入った魚介の旨みたっぷりのソースが細いパスタによく絡んでおいしい。
私が六割がた食べられたのを見て、手放しで褒めてくれる瑠璃。
明と別れてから激減してしまった食欲を、ずっと気にかけてくれていたのだ。
そういえば今日はちゃんと味を感じて楽しむことまでできた。
私にとって大きな変化だ。
彼女は白いスクエアプレートに載せられたデザートのチーズケーキをフォークですくって口に運ぶ。
うんうんと頷いてから、続けた。
「本当に似合ってる、その髪型」
「ありがとう。こんなに短くしたの初めてだよ」
「美容師としての腕は確かだね、その子。それでそれで? また会う予定はあるの?」
瑠璃はなんだか楽しそうに訊いてくる。
明と別れてから陰鬱とした話題しかなかったからだろうか。
学生時代に恋愛に関する密談をしていた時のようなテンションだ。
はしゃぐ彼女を見ていると一瞬、ふたりしてその頃にタイムスリップしたような気がして、可笑しい。
「彼女役、引き受けるって言ったから、たぶん」
「彼女役って笑える。番犬?」
ルリがけらけら笑う。ちょっとひどいけど、言い得て妙だ。
「でもそんなイケメンの彼女役をするなんて、現実であるんだねぇ」
「実際、現実味ないよ。夢だったのかなぁって思うときもあるし」
でも鏡で自分のさっぱりしたヘアスタイルを見るたび、ちゃんと現実のことなのだと実感するのだ。
どうでもいいと思っていたのが嘘のように、不思議とヘアアイロンで毛先を巻いてみたり髪の毛をいじる気力も湧いてきた。