しばらく歩いてから後ろを振り返ると、ずいぶん小さくなった彼女たちが、口々になにかを言い合いながら、まだこちらを見ていた。
 何を話しているのか想像するだけでも恐ろしい。

「えっと、今のって……」

 隣を歩く湊人を見上げると、ニヤッと笑っていた。
 先程、女の子たちに向けていた笑顔とは全然違う、ちょっと意地悪そうな笑顔。
 今朝までの彼と同じ笑い方だ。

「彼女のふり。次はもう少しちゃんと喋れよ」
「なにそれ」
「さっきの、店の客なんだけど……」

 店。そしてさっきのモテている様子。私は早押しクイズに挑戦する回答者になったような気分で、彼の話を遮って言った。

「やっぱりホストなんだ」

 私の言葉を聞いた湊人が思いきり眉間に(しわ)を寄せる。

「昨日から、どうしても俺をホストにしてぇのな。違ぇから。スタイリスト……美容師だよ。さっきのビルにサロンが入ってたろ? あれが俺の職場」

 美容師。
 美容師といっても、ハタチそこそこじゃまだ専門学校を出たてで、カラーやブロー、シャンプーなんかをしてくれるアシスタントのイメージがあるけれど。
 こんなに若くてもスタイリストになれるものなんだ。

「若いのに、すごいね」
「そうか? もう二十四だけどな」
「二十四歳? 成人したてだと思ってた。それでも私より十才も下……」

 見た目から予想していたよりは年齢を重ねていたけれど、若い。
 改めて、こんな若い男の子と手を繋いでいる事実にバツが悪くなって、おずおずと手を離して引っ込めた。
 それに気づいた湊人が、こちらをチラッと横目で見て言った。

「さっき、悪かったな」
「え?」
「あいつら、ひどいこと言ったろ」
「あー、気にしてないよ」

 気にしてないと言うのは嘘だけれど、私はちょっと笑って見せた。
 あの時、私を見つめて「おばさんじゃないよ」と言ってくれた時の、湊人の瞳を思い出す。
 あれもお芝居だったのだろうけれど、彼が私を(かば)ってくれたように感じて、ちょっと嬉しくなってしまった。
 なんだかそんな自分が恥ずかしくて、考えるのをやめる。

「それで、彼女のふりってなに?」

 湊人の足は新宿駅の東南口からJRの改札を抜ける。
 私は慌ててICカードを取り出して自動改札機に押し当てた。
 駅の構内はたくさんの人たちでごった返している。
 人混みをぬうようにして歩く彼に、少し早歩きをしてついていく。
 身長が高いからか、湊人は歩くのが早かった。