暗室を出ると、部室がやけに明るく感じた。閉鎖空間だったので時間を気にしていなかったけれど、あと五分でチャイムが鳴る。今日の部活は驚くほどあっという間だった。
「そういえば夏休みって、部活動ないんだって」
「まあ、そうだろうね」
先生は吹奏楽部に付きっきりだし、こっちに目を向けている余裕はなさそうだ。
「写真部も活動は地味だけど、もっと精力的になってもいいと思うんだよ」
楽ができてラッキーと思っていた私とは反対に、彼は不満そうにしている。
「精力的って?」
「本当は合宿とかやりたいけど、それは顧問の同行が必要だし無理じゃん?」
「無理っていうか合宿なんて面倒だし嫌だ」
「だろ。だから普通に出掛けて綺麗なものを探しに行きませんかっていう俺の遠回しの誘いなんだけど、どう思う?」
話が急展開すぎて私は固まる。
「……それって部活動なの?」
「部活動は建前。本音は俺が夏休みでも響に会いたいんだよ」
彼の耳がほんのりと赤く染まっていた。せっかくバレずに済んだと思っていたのに、また自分の顔が熱くなってくる。
これは一体、どういう意味で言ってるの?
聞きたいけれど心臓が速くなりすぎていて、言葉にして返事が戻ってくるまで耐えられそうにない。
「……そこまで言うなら、べつに会ってもいいけど」
照れ隠しでつい可愛くない言い方をしてしまった。
「じゃあ、約束な」
彼が小指を向けてきた。私も自然と重ねて合わせて、ゆびきりを交わす。
……男の子の手に初めて触れた。関節のひとつひとつが目立っていて、形も大きさも私の手とは全然違う。
旭が男だということはもちろんわかっていたことだ。
でもなんか私……強く彼のことを意識してしまっているかもしれない。