「なにしてるの?」
「こうして印画紙にフィルムを投影してるんだよ」
そう言って、機械のスイッチをオンにした。二十秒ほど経ったところで旭が投射された紙をピンセットで掴んだ。
「まだなんにも写ってないよ?」
「これからが面白いんだよ」
わくわくした表情を隠さずに、真っ白な紙をトレイの中に浸し始めた。水のように見えるそれは、おそらくなにかの薬品だろう。側には現像液と書かれたボトルが置かれている。
ピンセットの動きに合わせて届く水音。やっぱりいけないことをしてるような気分になっていると、ぼんやりと紙からなにかが浮かび上がってきた。
「わっ……」
それは私が撮った花の写真だった。
……すごい。なにもない紙から浮かんでくる様子は、まるでマジックのようだと思った。
旭は現像液から写真を取り出した。それを頭上に張られたロープに掲げてクリップで挟む。
「ちょっと焼きが薄かったかな?」
赤色のライトに照らされている写真はたしかに濃いものではなかったけれど、しっかり花は写されていた。
「モノクロ写真なんだね」
「撮ったフィルムがカラーじゃなかったから。でも俺はモノクロのほうが好きだな」
「なんで?」
「だって撮った人しか色を知らない。だからこの花が黄色って知ってるのは俺と響だけってこと」
その言葉に、心臓がドクンと反応した。自分の体温がどっと熱くなったのがわかった。こんなこと初めてだから戸惑っている。
「写真が乾いたら響にあげるから」
私の胸を騒がしくしておいて、涼しい顔をしてる旭がちょっとだけ憎らしい。
……ここが赤色に包まれる空間でよかった。
赤面してるであろう私の顔なんて見られたら恥ずかしい。