「フィルムカメラは速度とか光を自分で設定しなきゃいけないけど、覚えてしまえば難しいものじゃないよ」
「やっぱり詳しいじゃん、カメラ」
「詳しくないよ。撮り方を知ってるだけ」
でも普通は知らないことだ。たしか前にフィルムカメラがうちにあるって言ってたっけ。
それは旭のものなのかな。聞いていいのか悪いのか。聞くほどのことなのか、そんな面倒なことを考えてしまう。
そういえば私、人に興味って持ったことがない。彼のことを知りたいと思うのは……興味なんだろうか。
「花、たくさん咲いてよかったよな」
風に揺れてる花は彼みたいな黄色をしている。名前はわからない。でも名前なんてなんでもいい。だってこんな私でも綺麗だってことぐらいはわかるから。
「シャッターって、このボタンで合ってる?」
「うん」
私はファインダーから見える小さな花を主人公にしてボタンを押した。