重たい気持ちのまま駅に着いた。ホームは通勤ラッシュということもあり毎朝うんざりするほど混んでいる。
いつものように女性専用車両の列に並んでいると、「あれ?」という声がした。気配を感じたので視線を送ると、そこには他校の制服を着た女子二人組がいた。
なんとなく顔に見覚えがある。クラスは違ったけれど、多分同じ中学の人だと思う。
「やっぱり市川さんだよね? なんか雰囲気変わったね!」
それは良いほうなのか悪いほうなのかどっちだろうと思いながらも、親しげに話しかけられたことに驚いた。だって私は名前すら知らない。
「どこの高校に通ってるの?」なんて他愛ない質問をされたあと、「そういえばさ」と本題を振られた。
「市川さんって旭くんと仲よかったよね? 今も連絡取り合ったりしてるの?」
きっとこれが聞きたくて声をかけてきたに違いない。ここは正直にならないほうがいいと察して、首を横に振った。
「えーそうなの? 絶対市川さんなら取ってると思ってた。だって、ね?」
「うん、ふたりは付き合ってるって噂あったしね」
まるで打ち合わせでもしてたように息がぴったりだ。たしかに私たちのことをそういうふうに思ってる人は少なくなかった。
人気者だった彼がわざわざマイナーな写真部に入り、しかも活動していた部員はふたりだけ。私が部室で旭のことを誘惑してるんじゃないかって、言いがかりをつけられたこともあったっけ。
「この際だから聞いちゃうけど、噂は本当だったの?」
「……違うよ」
私たちは恋人じゃなかった。でも友達……という表現もなんだか違う気がしてる。
だったら私と旭の関係はなんだったんだろう。自分でも名前がつけられない。