ひとりで畦道を歩いていると、無性に響に会いたくなる。
もしも東京にいた時に病気が発覚していたら俺たちの関係はどうなっていたんだろうか。
なにを考えても絵空事にしかならないけれど、俺は今の状況と同じように彼女から離れたかもしれない。
大切に想うからこそ隠したい。彼女が思い浮かべる俺の姿が暗いものにならないように。
「おーい、旭ー!」
甲高い声が田んぼに轟いていた。ぞろぞろと男子を引き連れて歩いてきたのは早坂だ。
友達はみんな同じクラスで、いつものメンバーだった。どうやらせっかくの日曜だというのに、とくに予定もなく日中はダラダラと過ごしていたらしい。
「これからまたもんじゃ会なんだけど、旭も来てよ」
「いや、俺、母さんから卵頼まれてるし、手持ちもないから家で食うわ」
「えー! じゃあ、私も旭の家でご飯食べる! おばさんに連絡するからさ」
そう言って早坂はメッセージを早打ちで送信していた。
「ってことで、みんなじゃあね」
「は? お前がもんじゃ会やろうって言い出したんじゃん」
「私は暇なら集まろうって声かけただけだし」
「ったく。まあ、いいわ。旭またな。俺らだけでもんじゃしてるから気が向いたら来いよ」
「おー」
小さい頃からの付き合いであるみんなのほうが早坂の気まぐれに慣れている。愚痴は言っても許し合えてしまう関係が、やっぱり人情を大切にしてるこの町ならではだと思う。
「おばさんオッケーだって!」
「俺は許可してないけど?」
「旭よりおばさんのほうが偉いもん」
たしかにそうだと、しぶしぶ一緒に家へと続く道を歩く。
西の空が焼けるような赤色をしていた。とても綺麗なのに、どこか寂しい気持ちにもさせる。
あの頃、死ぬとか生きるとか重みは知っていても、自分に置き換えて考えたことはなかった。
後悔したくないからと電話をかけたのに、今は余計に恋しくなりすぎて後悔してる。
今、響の街は何色の空をしてるんだろう。
手を伸ばせば触れられる距離にいた頃が、やっぱりこの夕焼けよりもずっと遠い日のことに感じていた。