*
放課後になり、私は未央の迎えへと急ぐ。
手を繋いで園を出ると、「未央ちゃん、ばいばい」と、色んな子が声をかけてくれた。
二歳とはいえ、そこには私の知らないコミュニティがしっかりと存在している。
「今日ね、先生から折り紙上手だねって褒められたの!」
いつもは私の迎えじゃ嫌だと言う未央も、今日はとてもご機嫌だ。
「そうなんだ。よかったね」
「あとね、ねーねの作ったお弁当美味しかったよ」
「本当?」
「うん。でも半分残したよ」
どうやらご飯の量が多かったらしい。たしかに私たちと同じ分量を詰めたお弁当を未央が食べきれるはずがない。
「ごめん。次は気をつける」
「いいよ。怒ったりしてないもん」
妹は素直で可愛い。けれど、この繋いでいる小さな手を愛しいと思えているかはわからない。正直、鬱陶しいと感じている時もある。
今はまだなにも気づかなくてもいずれ成長していけば、私の醜い嫉妬心を見透かされてしまう日がくるかもしれない。
……と、その時、スマホに一通のメッセージが届いた。
【今日も未央の迎え行ってくれたってお母さんから聞いたよ。いつもありがとう。なにか困ったことがあったらいつでも連絡しておいで】
それは単身赴任で大阪に住んでいるお父さんからだった。
お父さんとの血の繋がりはないけれど邪険にされたことなんて一度もなくて、出逢った頃から優しくしてくれる。でも私はきっとまだ心を開けてない。
【ありがとう。お父さんも仕事頑張ってね】
私はいつもどおりの返事をした。
お父さんとのやり取りを事務的と言ってしまうと心苦しいけれど、正直に表現すれば私はそんなふうに捉えている。
なにか困ったことがあったら連絡してと言われても、なかなかしにくいし、私が悩んでいることは困っていることに当てはまるのかどうかも判断できない。