「お前って、偉いよな」
「そう? 旭は将来やりたいこととかないの?」
「俺は……ない」
「あ、今間があいた!」
「あいてねーよ」
俺はしどろもどろになりながら返す。
高校二年になって、進路の話も少しずつ増えてきた。進学にしろ就職にしろほとんどの人がこの町から出ていく。そうなれば便利な街へとそのまま住み着いてしまい、盆や正月しか帰ってこない人が大半だろう。
……と、その時。スマホが一瞬だけ振動した。ワンコールで切れてしまった着信は響からだった。
どうしたんだろうとかけ直そうとすると、「ねえ」と早坂に洋服を掴まれた。
「私のことも名前で呼んでよ」
「……?」
「だって電話の子には呼んでるじゃん。響って」
早坂がまた口を尖らせている。俺はきっと女友達も多いほうだと思うけれど、そこにはしっかりとした距離感があり、誰に対しても名字で呼んでいる。
女の子の名前を呼び捨てにしてるのは響だけだ。それは十四歳も十七歳も変わらない。
「俺そろそろ帰るから。じゃあな、たま」
「た・ま・き!!」
ムキになっている早坂を置いて、部屋を出た。