「ふーん。ってか、あんたって身長なんセンチ?」
「え、え?」
もっと重箱の隅をつつくようなことを言われる覚悟をしていたのに、あっさりと流されてしまってぽかんとする。
「で、なんセンチなのよ」
「百六十二センチだけど……」
「スカート派? パンツ派?」
「どっちも履くけど、なんでそんなこと聞くの?」
質問の意図がわからずに困惑していた。
「旭の想像だと、今の響はショートカットで身長は百五十六センチよりちょっと伸びてて格好はボーイッシュなんだってさ」
それはまさに十四歳の私そのものだ。
「女は二年あればとてつもなく変わるっていうのに笑っちゃうでしょ?」
早坂さんは風でなびく髪の毛を耳にかける。
「私、旭にフラれたよ」
「え……」
「私は見てのとおり可愛いし、この十七年間ずっとモテてきた。だから当然旭も私のことを好きになるだろうって思ってた。あんたの存在を知るまではね」
早坂さんの口調が、次第に柔らかいものに変わっていく。
「旭の隣にいた時間は私のほうが長いのに、いくら努力しても勝てないのよ。十四歳の時に一緒にいたふたりの時間には」
旭は私に〝初めて〟をたくさんくれた。それはこの先も誰かに塗り替えられることはない。
「ねえ、あんたの頭の中にいる旭ってどんな姿なの?」
「ないよ。私は十七歳の旭のことはまだ知らない」
即答で言った。それが正解とでも言うように、早坂さんは満足そうに微笑む。
私はまだ今の彼を知らない。
彼もまた今の私を知らない。