「ふたりして過去の思い出話ばっかりして、楽しかった時のことだけを噛みしめて本当にバカみたいだよ。そんなのいくらこっちが頑張っても勝てるわけない。だって綺麗な箱に綺麗なものだけ詰め込んで、綺麗な鍵で開かないようにしてるんだからさ!」
早坂の言ってることは正しい。
俺と響の思い出は進まない。
だから汚れもしない。
もしこの町に来ることはなく、彼女とずっと一緒にいたら二年後の今、綺麗なだけの関係でいられているか自信はない。
だって俺たちは、嫌なところをなにも見せ合わないまま別れた。
喧嘩して背中合わせになって、しばらく顔を見たくないなんて思うほどの関係が築けないまま、離れることになったから。
「でもね、ムカつく反面羨ましいよ。会ってなくても想いが消えないなんてさ。私も旭にとってそういう存在になりたかったよ」
早坂が切ない瞳をした。そして……。
「好きだよ、旭」
耳に届いた、早坂のまっすぐな気持ち。
「俺も……お前のこと友達として好きだよ」
「それは優しさじゃない。はっきり言ってくれないと踏ん切りつかないから」
「早坂、ごめん。俺はその気持ちには応えられない」
「うん、それでいいんだよ」
彼女はまるでその言葉を待っていたかのようだった。早坂は胸のつかえが取れたようにスッキリとしながら、「あーあ」と長い腕を突き上げて伸びをしていた。
「私、旭が悔しがるくらいいい女になるから、早く死ぬなんて許さないよ」
この町に来てよかったと思う理由の中に早坂もいる。
こんなことを言えば早坂に優しすぎると叱られるだろうけど、この二年間、早坂がいてくれて救われたことがたくさんあった。
感謝してる。言葉にならないくらいに。
「うん、大丈夫。簡単に死んだりしねーよ」
次に清々しい声を出したのは俺のほう。
自分がするべきことなら、もうちゃんとわかっていた。