その日の晩。俺は早坂のウォーキングにまた付き合っていた。

この前まで蒸し暑くて陽炎が浮いていたのに、今は山から吹いてくる夜風は寒いくらいだった。

「私、この前のオーディションの一次審査受かった」

「え、マジ?」

「だからまた近々東京に行くよ」

「そっか。頑張れ」

ブレずに夢を追う早坂は本当に偉いと思う。負けず嫌いだから勝つまでやるだろうし、きっと大きな夢を掴むだろうと信じている。

「ねえ、十七歳の響ってどんな感じになってたと思う? 想像でいいから言ってみてよ」

また唐突に難しいことを……。

「うーん、髪の毛はショートカットで、身長は百五十六センチくらいだったから多分それよりは伸びてるかな」

「あとは?」

「洋服はボーイッシュな感じで、顔はそうだな。綺麗にはなってるだろうけど元から大人びてたからあんまり変わってなさそう」

「本当に旭の中でのあの子は中二のままなんだね」

想像でいいって言ったから答えたのに、早坂に鼻で笑われた。「仕方ないだろ」と強めに言い返すと、彼女は歩く足を止めて星空を見上げた。

「なんか悔しいを通り越して、腹たってきたよ、私」

早坂は溜まっていたことがあふれ出したように、俺のことを睨んできた。