「森谷君がしたことは私にも彼女にもすごく失礼なことだと思う。きっと私よりも彼女の方が傷付いているはずだよ」

 私はそっと息を吸うと吐き出した。

「私はもう森谷君と付き合う気はないから」

 はっきりとそう告げると、目の前の森谷君は大きく目を見開き、しばらくは私を睨むようにじっと見つめていた。けれどやがてフッと鼻で笑う。

「そうかよ」

 吐き捨てるようにそれだけを告げると森谷君は私たちに背中を向ける。そして薄暗い住宅街の道を進み、やがて角を曲がると森谷君の姿はとうとう見えなくなった。

 私は思わずホッと胸を撫で下ろす。後味は悪いけどとりあえず解決でいいのかな。

 森谷君との仲がこんなにこじれてしまってできればもう顔を合わせたくはないけど、彼は同じ職場の同期だ。そういうわけにもいかない。でもまぁもうそのときはそのときだよね。

 明日からの職場でのことを憂鬱に思っていると、近くから由貴ちゃんのため息が聞こえた。

「あーあ。本当はこんな形で言うつもりじゃなかったのに」

 へなへなとその場に力なく崩れ落ちるように由貴ちゃんは座り込んでしまった。

「大丈夫、由貴ちゃん?」

「大丈夫じゃない」

 そう呟いて、由貴ちゃんはすっと立ち上がる。