「本当は今日、そのことでめぐに話したいことがあったんだ。でも、なかなか切り出せないままここまで来ちゃって。……でも、うん。もうはっきりと言う」

 由貴ちゃんがすぅっと深く息を飲む吸い込んで、吐き出す。

「俺、めぐのこと――」

 しかし、その言葉は途中で止まり、由貴ちゃんの視線はどこか真っ直ぐ前を見つめている。

「由貴ちゃん?」

 続きの言葉が気になって呼び掛けても由貴ちゃんからの返事はない。さっきから何を見ているのだろう。

 その視線の先を辿っていった私の動きが止まる。

「えっ……」

 私の実家まであと数メートルというところに一人の男性の姿を見つけてしまった。たぶん由貴ちゃんもその人を見て言葉を止めたんだと思う。

 そこにいたのは私が今一番会いたくない人――元彼の森谷君だ。

「やっと会えた」

 森谷君はそう言うとゆっくりとこちらに向かって足を進める。暗くて表情がよく見えないけれど声の様子からして機嫌が悪そう。

「どうしてLINEも電話も無視するんだよ。返事ぐらいくれてもいいだろ」

 森谷君が一歩近付くたびに自然と私の足は後ろへ向かって距離を取る。たぶん森谷君から送られてくるメッセージに私が一度も返事をしなかったから家まで来たのかもしれない。

 どうしよう……。