「実は、まだ分からないんです」

 ね、と妊婦さんが隣の旦那さんへ視線を投げると、続きを旦那さんが話し始める。

「産まれたときの楽しみにしようと思っているんです」

 へぇ、と思わず深く頷いた。

 ほとんどのお客様は性別を知った上で色やデザインを決めて購入していくけれど、たまに性別が分からない状態で購入にくるお客様もいらっしゃる。

「どちらでしょうね。私まで気になってきました。楽しみですね」

 言葉を交わしながら店内を移動しているとあっという間にベビードレスが並ぶ売場に到着した。

 ちっちゃな白のふわふわとしたドレスがとてもかわいい。それは妊婦さんも同じだったようで、いとおしそうに目を細めて一着一着を大切そうに手にとっている。たまに旦那さんに向かって「見てみて。これかわいい」と話しかけている姿がとても微笑ましい。

「これにしようかな」

 たくさん手にとってみていたはずなのに、結局、妊婦の女性が選んだのはシンプルな白のドレス。性別が分からないと言っていたし確かにそのデザインが一番無難かもしれない。