「もうっ! めぐみの鈍感。はっきり言わないとわからないのか! だから、男女が同じ部屋で夜を過ごしたら、なんていうかムラムラとくるでしょ」

「ムラムラ……」

 言いにくそうにしているゆかりを見ていたら、ああそういうことか、とようやく理解ができた。

「なるわけないよ。だって幼馴染なんだから、今さらそういうムードにならないって」

 思わず笑い飛ばしてしまった。

 問題ってそれ? だとしたら、そんなの少しも問題じゃない。

「あのさ、めぐみはそうかもしれないけど、由貴ちゃんはどうなの? めぐみは意識してないかもしれないけど、そういうのって男の人の方がきっと意識すると思うよ。由貴ちゃんだってきっと我慢してるんじゃないかな」

「我慢……?」

 そういえば、似たようなセリフを由貴ちゃんがからも聞いたような気がするなぁ。と、そんなことを思い出しながら、しょうが焼きを口の中へ放り込んだ。



 その日、仕事が終わったのは午後の八時だった。職員用の出口を出ると、ひんやりとした風が頬に当たる。

 十月下旬の今は、昼間は上着一枚でもまた過ごせるけれど、夜になるとさすがに肌寒い。チェック柄のワンピースの上に羽織っているトレンチコートの襟元をかきあわせて歩いていると、後ろから「めぐ」と名前を呼ばれた。