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「それで俺の家に来たってこと？」

「うん」

「うん、じゃなくてさ」

　呆れたように呟くのは私の幼馴染の蓮見(はすみ)由貴－通称『由貴ちゃん』だ。

　同じ歳の二十五歳で、性別は男。名前が女の子みたいだから、ちゃん付けで呼ばれるのが本人はあまり好きじゃない。でも、私は子供の頃からそう呼んでいるので今さら変えたりしない。

　由貴ちゃんは大学進学をきっかけに千葉の実家を出て、都内でひとり暮らしを始めた。今は、1LDKのマンションの十三階に住んでいる。そして私はここを勝手にセカンドハウスと呼ばせてもらっている。


「そういうことで由貴ちゃん。今日、泊まるね」

「お好きにどうぞ」

　泊まらせてもらうのだから、その理由はもちろん由貴ちゃんにしっかりと説明した。

　彼氏に二股をかけられていたこと。どうやら私が浮気相手だったこと。本命彼女に右頬を思いきりぶたれたこと。そして、この頬では家に帰るとお母さんが驚いてしまうので、一晩だけ泊めさせてほしいこと。

　あの心配性で過保護な母親も、厳しい父親も、幼馴染の由貴ちゃんには全幅の信頼を寄せているので、『由貴ちゃんちに泊まる』と連絡をすると、簡単に外泊の許可をもらえるのだ。

　これまでも、たまにある職場の友人たちとの飲み会などで帰りが遅くなるときは、千葉にある実家よりも都内の由貴ちゃんのマンションの方が帰るのに便利で、何度も泊まらせてもらっている。

　由貴ちゃんは私が泊まることに対して、少しだけめんどくさそうな素振りを見せつつも、今日も温かなココアを出してくれる。こういうところ由貴ちゃんは優しいんだよね。