今回はレストランの入口で待ち合わせだ。
前回とはガラッと雰囲気を変えて髪は下ろしてきたし、Aラインのシックなワンピースにヒールのある靴だ。ピアスとネックレスも少し派手目なものを選んで着けた。

広人はというと、前回同様シワのない上品なスーツに、やはりダサい分厚い黒淵メガネだ。

レストランの入口で待つ杏奈の姿を見て、広人は思わず固まった。

「びっくりしました。前と雰囲気が違いますね?」

「はい、こっちが本当の姿です。前回は猫被ってました。びっくりしましたよね?」

挑戦的に発言する杏奈に、広人は口元を手で覆う。

(さあ、嫌がりなさい。)

着物を着た上品な杏奈に幻想を抱いてはいけない。
それが良いというなら、それは杏奈の本当の姿ではないのだから、今日の姿を見てガッカリするに違いない。
杏奈としてはそれを期待していたわけなのだが。

「何というか、申し訳ない気持ちでいっぱいです。」

「はい。」

よしきた!
と思ったのは一瞬だった。

「僕なんかが隣にいていいのかなって。その、何というか、杏奈さんが綺麗すぎて…。」

「へっ?」

何を言われたか理解できずに、杏奈はすっとんきょうな声を出してぽかーんとしてしまう。
おかしい、嫌われる予定だったのに“綺麗”とか言わなかっただろうか。

「えっと、嫌じゃないんですか?」

訝しげに尋ねると、広人は照れたように頭を掻きながら言う。

「嫌だなんて滅相もない。僕はその、こんなですし、地味というか。」

ははっと柔らかく笑う広人に、杏奈はつられて思わず笑みがこぼれた。