祖母からの“お見合い”という重大ミッションをこなし、杏奈はやれやれという気持ちで着物を脱いだ。
お腹回りを締めていた帯が緩まると、自然とふうとため息が出る。
とても綺麗に着せてもらえてありがたかったが、やはり洋服の方が楽だ。

「杏奈、どうだったかい?」

「うーん、とても優しそうな雰囲気だったわ。」

「そうかね、そうかね。」

祖母は満足そうに頷く。
すぐに断りを伝えようかとも思ったが、祖母の笑顔を見ていると申し訳ない気持ちになってしまって、杏奈は口をつぐんだ。
ここはしばらく日にちを置いてから体よく断った方が後腐れないだろうと考え、杏奈は祖母に丁寧にお礼を言ってから家路に着いた。

数日経って、また母から電話が掛かってきた。
断るちょうどいい機会だと思って出ると、母の用事も同じ“お見合い”のことだった。

「相手側からまた会いたいと言われたそうよ。」

「え?嘘でしょ?」

母の言葉が信じられず、思わず声が上ずってしまう。

(あの態度は嫌なわけじゃなかったの?)

目が合うと何度も視線を外す広人を思い出す。あれが拒否ではないとしたら、一体何なのか。まさか本当に照れていたとでもいうのだろうか。

「やったわね、杏奈。次もいってらっしゃい。」

またしても杏奈の都合などお構い無しに勝手に決められてしまい、杏奈は憤った。

むかつくので、次は普段通りの服で行くことに決めた。

(着物を着こなす清楚な杏奈は猫かぶりです。チャラチャラとした派手な私を嫌いになればいいんだわ。)

そんな気持ちで、次はレストランで食事の予定が立てられた。