「三浦さん、それってminamiのパンじゃないですか!えー、いいなぁ。波多野さん、ずるい!」

minamiの紙袋を指差し、パンを食べようとしている波多野に向かって人懐っこく寄ってきたのは、事務員の百瀬だ。

短大卒で事務員として入社し、今回新規プロジェクトの立ち上がりと同時に杏奈の配下になった。
若さと人懐っこさで、誰とでもざっくばらんに話ができる貴重な人材だ。
杏奈も人当たりはいい方だと自分でも思っているが、百瀬はそれ以上だ。
それに杏奈とはまたタイプが違い、愛されキャラともいえる。

「え?何?有名?」

minamiを知らない波多野は、一人騒ぐ百瀬を尻目にパンにかぶりつく。

「有名ですよ!波多野さん、大事に食べてください!三浦さんminami行ったんですか?」

「え?ええ。」

「えーいいなー。私も行ってみたいんです。雑誌に載っててー。」

言いながら、百瀬はデスクの引き出しからタウン紙を取り出し、パラパラとめくる。

「よかったら百瀬さんも食べる?」

百瀬の勢いに苦笑しながら杏奈が尋ねると、百瀬は目を輝かせながら一段と前のめりになった。

「いいんですか?」

「百瀬たかるなよー。」

「ちょっと、波多野さんが言う?」

貰う気満々の百瀬にすかさず波多野が茶々を入れると、チーム内に笑いが起こった。
始業時間はとっくに過ぎていたが、今までにないとてもいい雰囲気に杏奈は胸がじんとするのを感じた。

「あの、よかったら皆さんもどうぞ。たくさん買いすぎちゃったから。」

杏奈は紙袋を持ってチームの真ん中へ行き、デスクの上にパンを広げた。
チームは全員で5人と少ないが、全員わらわらと集まってくる。

「どうしよー、迷うー。」

その中でも百瀬が一番キャピキャピとはしゃいでいて、何だか可笑しくなって杏奈は自然と笑顔になっていた。