翌朝目を開いた私は、見覚えのない木張りの天井に困惑する。

「え、何ここ、どこ……?」

 一瞬考えて、廉冶さんの家だと思い出しながら身体を起こす。

「そうだ……廉冶さんに、連れて来られて……。やっぱり夢じゃなかったんだ……」

 昨日は訳も分からないまま眠ってしまったので、今日はもう少しこの家と島のことを調べることにした。

 廊下に出ると、眩しい太陽が降りそそいで、遠くに海が見える。
 廉冶さんの家は島の一番高い場所にあるから、島を一望することができた。

「うーん、いいなぁ、海が見える景色って」

 あらためて探索すると、廉冶さんの家は、とても広い。
 古いけれど清潔で、どこもかしこも和風の造りだ。
 昨日使ったけれど、お風呂も旅館にあるようなヒノキ風呂だったし。

 部屋数は多いが、普段使っているのは台所、居間、廉冶さんの仕事部屋、そこに連なった彼の寝室、マオ君の部屋くらいらしい。
余っている部屋はほとんど物置になっており、その一室が私に与えられたようだ。

 顔を洗って台所へ行くと、廉冶さんがいた。
 彼は今日も和服姿だった。もしかして、いつも和服なのだろうか。
 凜とした彼の雰囲気に似合っているけれど。

 私は少し緊張しながら彼に声をかける。

「おはよう、廉冶さん」
「おお、おはよう弥生」

「私、朝ご飯作るよ」
「そんな気を使わなくてもいいのに」
「ここに住まわせてもらってるんだから、家事でできそうなことは私がやるよ」

 何もしないでぼんやりしているのは悪いし。 
そう考えて冷蔵庫を開いたが、中は空っぽだった。

「廉冶さんって、料理しない人?」
「あー、いつも適当に食パンとか食べてたからな」
「そうなんだ」
「昼飯は、カップラーメンとか、出前とか」
「ずっとそんな感じなの?」

「あぁ。俺には残念ながら、料理の才能があまりなくてな。他の部分の才能は有り余ってるんだが」
「はぁ」

 まぁ私も一人暮らしだったから、似たような生活だったけれど。
 強い視線を感じ、廉冶さんの後ろを覗き込むと、小さな頭と猫の尻尾が見えた。

「マオ君、おはよう」

 笑顔でそう挨拶するが、返事はない。
マオ君は廉冶さんの後ろに隠れ、じっとりとこちらを見張っている。
今日も警戒されているなぁ。

 当然だろう。いきなり知らない人が一緒に住むようになったら、私だって嫌だ。
私はまだ幼い彼を見て、考えた。

「マオ君、いくつ?」

 彼はどうしようか悩んだ後、ぽそぽそとした声で答える。

「……四歳です」
「四歳かぁ」

 余計なお世話かもしれないけど、マオ君は育ち盛りだから、きちんとしたものを作ってあげた方がいいんじゃないだろうか。

「じゃあ私、とりあえず朝ご飯を買いに行ってくるよ」
「まだ道が分からないだろ。一緒に行こうぜ」

 近くに買い物に行くだけだとしても、廉冶さんと出かけられるのは少し嬉しい。

「うんっ!」

 喜んでいると、廉冶さんの背後からとてつもない負のオーラを感じた。
 マオ君の視線がさらにきつくなる。突然現れたよく知らない女にお父さんがとられるのは嫌なのだろう。

 まぁ、ゆっくり馴染めばいいかな。
 まだ本当にここでずっと暮らすのかも分からないし。