後ろでじゃりっと、砂の音がして振り返る。
 マオ君の泣き叫ぶ声が聞こえたのか、いつの間にか、近くに沖田さんが佇んでいた。

「……逝ってしまったか」

「沖田さん」

 沖田さんは、シロさんの側に腰を下ろした。

「今日の朝起きた時は、まだ元気だったんだ。
でも、どうしても家から静子さんの家に帰りたがってな。シロもおそらく、自分の寿命が分かっておったんだろう」

 猫は自分の死期を悟った時、飼い主の前から姿を消すと言う。
 けれどシロさんにとって、終わりを迎えたい場所は、静子さんの思い出がつまっているこの家だったのだろう。
 
 沖田さんのしわだらけの手で慈しむように、ゆっくりとシロさんの身体を撫でた。

「今までよく頑張ったな、シロ」

 その姿を見たマオ君は、泣きながら言った。

「先生、話してました。ずっと、静子さんと一緒だったって。
静子さんが、大好きだったって。
静子さんがいなくなってから、寂しくて仕方なかったって。
僕じゃ……。僕じゃ、ダメだって、静子さんのかわりにはなれないって、最初から、分かってたんです」

 マオ君は深く悲しみながら、やがてシロさんと別れる決意をしたようだ。

 泣いて泣いて、涙を流しつくし、シロさんとのお別れをすませた後。
 廉冶さんは暗い表情で沖田さんに問いかけた。

「シロの遺体はどうしますか?」

「ペット用の火葬業者もあるが、静子さんの家が好きな猫だった。静子さんの家で眠らせてやるのが、一番いいだろう」

 廉冶さんは頷いて、沖田さんに問いかけた。

「スコップとかありますか? 俺、穴を掘りますよ」

 廉冶さんは沖田さんに道具を借り、静子さんの家の庭に、深く深く穴を掘った。

 私たちはその穴に、シロさんの身体を横たわらせる。
 その様子を見て、マオ君はまたぽろぽろと涙を流す。

 やがて埋葬が終わると、沖田さんは私たちに頭を下げた。

「色々世話になったな。
こうやって土に返したら、シロも静子さんのところに行けるだろう。ありがとうな」

「いえ……」

 きっと沖田さんにとっても、シロさんは、家族のような存在だったに違いない。
 すぐには無理でも、年月を重ねて、沖田さんの悲しみが癒えるといい。そう思った。

 私たちは沖田さんに挨拶をして、帰宅することにした。
 マオ君は廉冶さんに抱かれ、家に帰るまでの間、ずっとしくしくと泣きじゃくっていた。