心臓がとくん、と大きく高鳴る。

「……はい」

 彼と再び出会って、改めて自覚した。

 やっぱり私は、廉冶さんのことをずっと待っていたのだ。
 諦めたふりをしていたけれど、無理矢理そう思い込もうとしていたけれど、本当は、ずっとずっと彼に会いたかった。

 彼はくっ、と喉の奥で笑った。

「やけに素直だな。不気味なくらいに」

 そう言われ、顔がかっと熱くなる。

「ち、違う! 今のは気が動転してて、私、全部なくなっちゃって。仕事も、家も。だから、やり直したい気分だったっていうか……」

「そうか、それならちょうどいい」


 廉冶さんはふっと微笑むと、私の身体を軽々とお姫様抱っこした。

「きゃあっ!」
「よし、じゃあ俺の家に案内する。捕まってろ」

 そう言ったかと思うと、廉冶さんは窓を開いてそこに足をかけ、ぴょんと飛び跳ねる。

 私はさっと青ざめた。

「ちょっと待って、ここ五階っ!」

 落ちる、と覚悟して目をぎゅっと閉じ――。


 次に目蓋を開いた時には、潮の香りがした。

「え?」

 それから、ざざぁ、と波の音も聞こえる。

「……海?」

 気が付くと、私は廉冶さんに抱きかかえられたまま、知らない家の縁側にいた。
 古いけれど立派な日本屋敷だ。
 遠くを眺めると、海が揺らいでいるのが分かる。

「ど、どうして?」

 間違いない。ここは私が夏休みに訪れた、お祖父ちゃんが住んでいたあの島だ。
 お祖父ちゃんは三年前死んでしまったから、もうここにはいないけれど。

 この島は、廉冶さんと初めて出会った場所。

 だけど、私はたった今さっきまで関東のホテルにいて、ここまで来ようと思ったら飛行機だって二、三時間はかかるはず。
 それが目を瞑っている一瞬で辿り着くなんて。


 酔っているせいだろうか? いや、冷たい海風に当たった瞬間、完全に酔いがさめた。


「何を驚いた顔をしてるんだよ。神様なら、このくらい当然だ」
「神様……?」

 廉冶さんは自信ありげににやりと口角を上げた。

「そうだ、少し時間はかかったけど、ちゃんと神様になったぞ。だから弥生を迎えに行っただろう?」


 私は幼い頃の、廉冶さんの言葉を想い出す。 


『立派な神様になったら、必ず弥生のことを迎えに行くから』