廉冶さんは最近、お盆の準備で色々忙しい。
特にこの島には海の送り火の習慣があるので、その用意が大変だ。
まず海岸沿いに百メートル以上にも渡って、百箇所以上大きな穴を掘る。
そこに乾燥した松の葉や枝で作った松明(たいまつ)を並べる。
これがなかなかに重労働で、この時期になると島の人は総出で準備するらしい。
私も廉冶さんと一緒に、砂浜に大きな穴をいくつも掘った。
送り火の準備は有志の人が行っているらしいけれど、今まで顔を合わせたことがない島の若い人もたくさんいて、新鮮だった。
廉冶さんはこの島にある神社の持ち主なので――というか島の人は知らないけれど、神様本人なので、こういう行事の時は駆り出されることが多いそうな。
そうでなくても島に若い男の人が少ないこともあって、行事の時は力仕事を任せられるらしいけれど。
廉冶さんもこの島に住むようになって日が浅いはずだけれど、人を惹きつける雰囲気があるせいなのか、島の人は何か困ったことがあると、廉冶さんに相談している場面をよく見かけた。
「日も暮れてきたし、今日の作業はここまでにしましょう」
廉冶さんが声をかけると、島の人たちは互いに挨拶をして、家に帰っていく。
「今日はみんないっぱい働いたねー」
私が声をかけると、廉冶さんは大きく腕を回した。
「最近ずっと家にこもって仕事ばっかりしてたからな。久しぶりに身体を動かすとしんどいよ」
廉冶さんの隣でずっと一生懸命枝を運んでいたマオ君も、さすがに疲れた顔をしている。
私たちは三人で手を繋いで、家に向かって歩いた。
マオ君は疲れたからか、うとうとしている。
「マオ、おんぶしてやろうか?」
「はい……」
マオ君はむにゃむにゃと言いながら廉冶さんに向かって両手を伸ばす。
廉冶さんにおんぶされたマオ君は、今にも眠ってしまいそうだ。二人の様子が微笑ましくて、口元が緩む。
マオ君が眠そうな声で言った。
「お父さん、送り火って何ですか?」
「ん、知らないでやってたのか。
お盆になるとな、亡くなった人の魂が現世に帰ってくるって言われてるんだ。
だから先祖の人やこの島で亡くなった人が帰ってくる時の目印が迎え火、で、その魂たちを見送るのが送り火だ」
「へぇ……魂が帰ってくるんですか……」
うとうとしながらそう言ったマオ君は、そのまま眠ってしまった。
翌日の朝になると、マオ君は麦わら帽をかぶり、元気よく言った。
「今日も先生に会ってきます!」
「うーん……」
シロさんに会うこと自体は、まったく反対ではないのだけれど。
お隣に住む沖田さんに怒られたことを思い出し、少し躊躇する。
「廉冶さん、どう思う? また怒られるかな?」
居間で眠そうにしていた廉冶さんは、首をひねって言った。
「別にあのじいさんも、悪い人じゃないと思うんだけどな。今日は三人で行くか?」