私はハッとして言い訳しようとする。
かまいたちも、私がケガを治したのも、何よりマオ君の猫耳と尻尾も、完全に見られてしまった!
もう誤魔化すことはできないだろう。
マオ君はおろおろした様子で、ようやく耳と尻尾をしまう。
「マオ、尻尾生えてたよな? 耳も出てたよな? やっぱり、普通の人間じゃないよな?」
私は悠人君に真剣な声で言う。
「あのね、悠人君。マオ君はね、半分猫さんなんだ」
「猫……?」
「そう。さっきのかまいたちもだけど……この世界には、あやかしって生き物がいて、私たちと一緒に住んでいるんだ。大人には、あまり見えないんだけど」
「あやかし……」
「だけどマオ君が猫さんだってことは、秘密なんだ。何でかっていうと……」
何でかっていうと……何でだろう。
考えている私の目に、悠人君のTシャツの戦隊レッドの絵が飛び込んできた。
「マオ君は、正義の味方だから!」
「えっ!」
「ほら、悠人君が好きなヒーローも、正体を秘密にしているでしょう? だから、みんなに内緒にできるかな?」
私が言うと、やはり悠人君はぽかんとしている。
さすがに苦しい理由だろうか。
しかし数秒後、悠人君は興奮した様子で瞳を輝かせた。
「すっげー! かっこいい! 分かった、俺、秘密は守る!」
悠人君は俺も今日から仲間な、と言ってマオ君と指切りげんまんしている。
とりあえず、納得してくれてよかった。
私がほっとしていると、マオ君が私を見上げる。
「弥生……」
あ、適当な理由にしちゃったから、怒っただろうか。
そう焦ると、マオ君もキラキラ瞳を輝かせる。
「僕、正義の味方でしたか?」
「え?」
困惑したけれど、悠人君を助けた時のマオ君は、間違いなくかっこよかったし。
「うん、きっとそう、多分そうだよ!」
そう返事をすると、マオ君も嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねた。
何だか男の子って、楽しそうでいいな……。
それから数分後、喜代さんが迎えに来てくれたので、みんなで買い物に行って、喜代さんのお家でクレープを作ることになった。
私は悠人君とマオ君に作り方を説明する。
「まず、ボウルに卵を入れます。それから牛乳とホットケーキミックスを入れます。そうしたら、ダマがなくなるまで混ぜます」
すると悠人君は、うおおおおおおおと言いながらガシャガシャと泡立て器でボウルを混ぜる。
「こら悠人、中身飛ばさないでよ」
「俺にまかせろ!」
「あとは耐熱皿にラップを張って、スプーンで生地をのせて、レンジで温めたらできあがりです! 好きなフルーツや生クリームでデコレーションしてください」
喜代さんはクレープを作る子供たちを見ながらニコニコしている。
「簡単にできるのねー」
「はい、これならすぐできると思って」
全員分の生地が焼けたので、私たちはバナナやチョコレートのソースでデコレーションすることになった。
「あ、そうだ、これものせたらかわいいかも」
そう言って喜代さんが持って来たのは、この辺りの地域の伝統菓子だった。
「おいりですね。懐かしいな。おじいちゃんと食べたことがあります」
おいりは直径一センチくらいの真ん丸な形で、色は白や桃色、緑、紫、水色など色々あってカラフルだ。
あられの一種らしいけれど、口にいれた途端にとけてしまうほどふんわりしていて、ほんのり甘い。
喜代さんは笑顔で言った。
「おいりって「炒る」と「嫁に入る」が由来らしくて、結婚式の引き出物としてもよく使われるのよー」
「そうなんですね」
私はおいりを一つ食べてみた。
ふわりと甘くて、懐かしい味がする。