最初は猫かと思った。
しかし猫とは違う。猫に大きさはよく似ているけれど、耳は真ん丸だ。
そして何より、両手に鋭い鎌のようなものがあり、ギラリと光っている。
――かまいたちだ!
かまいたちは、三匹でいつも一緒に行動しているあやかしだ。
一匹目が風を起こして人間を転ばせ、二匹目が鎌で身体を切り、三匹目が傷口に薬を塗って治していくという、なぜそんなことをするの、と思わずツッコミたくなってしまうあやかしだ。
鎌で切られても普通なら三匹目が薬を塗ってすぐに治してしまうので、かすり傷程度ですむはずだ。
しかし、様子がおかしい。
いつも三匹で行動するはずなのに、ここにいるのはよりによって二匹目のかまいたちだけだ。
しかも興奮している様子で、かまいたちは悠人君に襲いかかろうとしている。
「悠人君っ!」
彼を助けようとするけれど、この距離では間に合わない。
私が悠人君の元に駆け出すと、それより早く、小さな身体がばっと悠人君の前に飛びだした。
「ダメです!」
悠人君を守ろうとしたのは、マオ君だった。
「悠人君は僕の友だちだから、やめてくださいっ!」
焦っているからか、マオ君は猫の耳と尻尾が出ている。
悠人君は驚いた様子でマオ君を見あげた。
「マオ……」
マオ君に威嚇されたかまいたちは、焦った様子で後ずさりする。
「マオ君、悠人君、ケガはない!?」
私が二人の元へ行くと、マオ君はこくりと頷いた。
「また耳と尻尾が出ちゃいました……」
私はマオ君の頭を撫で、ぎゅっと抱きしめる。
「ううん、偉かったよ。必死に悠人君のことを、守ろうとしたんだよね」
私たちを見ていたかまいたちは、ふーっと荒い息を吐く。
私はかまいたちの身体から血が出ているのを見つけた。
「少しじっとしてて。怖くないよ」
私は攻撃されないようにゆっくりとかまいたちに手を伸ばし、ケガをしているところを治癒した。
手の平から光が集まり、かまいたちの傷が消える。
「ケガをしてたから、他の二匹とはぐれちゃったのかな。もう大丈夫だよ」
私はかまいたちをそっと抱き上げる。
かまいたちはお礼を言うように、きゅっと鳴いた。
その瞬間だった。
ぶわっと強い風が私たちの周囲に吹き荒れる。
「きゃっ」
砂埃が目に入りそうになって思わず目を閉じる。
次に目を開いた時には、腕の中にいたかまいたちがふわりと宙に浮き上がっていた。
宙にはかまいたちを迎えに来た二匹がいて、三匹はくるくるとお礼を言うように円を描いてその場で回る。
「仲間と会えたんだね。よかった」
かまいたちは最後に私たちの周囲をくるりと飛んで、そのまま風と一緒に消えて行った。
「弥生姉ちゃん……」
呆然とした様子の悠人君が、私とマオ君に声をかけた。