しばらく喜代さんと世間話をしていると、退屈になったのか、悠人君が私たちの方に歩いてきた。
「母さん、なんか甘い物食べたい。何かないの?」
そう言われた喜代さんはそうねーと言いながら悩む。
「確かに、そろそろ三時だし、おやつでも食べたいわね。どこかに食べに行く?
でもこの島、おじいちゃんやおばあちゃんがやってるしぶーいお店しかないのよね。そういうところの豆大福とか羊羹もおいしいんだけど、今日はそういう気分じゃないなー」
「じゃあクレープでも作りますか?」
それを聞いた悠人君はぴょんぴょん跳ねた。
「俺、クレープ食べたい!」
私はこの間雑誌で見たレシピのことを思い出す。
「ホットケーキミックスと卵と牛乳と、あと生クリームとフルーツとかあれば、簡単にできますよ」
「俺クレープ食べたい! クレープ食べたい食べたい!」
私は悠人君とマオ君に言った。
「じゃあ公園に遊びに行く帰りに、材料を買って帰ろうか?」
二人で料理すれば、距離も縮むかもしれないし。
喜代さんもそれに同意して買い物に行こうと話がまとまったところで、喜代さんの家の呼び鈴が鳴る。
「あ、そうだ、今日新聞の集金の人が来る日だった。あそこのおばあさん、一度話し出すと長いのよねぇ」
長話の気配を察したのか、悠人君が喜代さんの服を引っ張って抵抗する。
「俺早く食べたい! 俺早く食べたいー!」
「待ちなさいよ、悠人」
マオ君はほとんどワガママを言ったり駄々をこねたりしないので、悠人君を見ていると新鮮だ。
「じゃあ私、先に公園で二人を遊ばせてますよ」
「え、でも」
「大丈夫です。用事が終わったら連絡ください。それで一緒に買い物に行きましょう」
「そう? ありがとう弥生ちゃん、助かるわ」
ということで、私はマオ君と悠人君を連れて、公園に向かうことになった。
外はまだまだ日差しが暑く、太陽の光が降りそそいでいる。
「俺ブランコで遊ぶんだー」
悠人君は元気で、少し目を離すと遠くに走っていってしまおうとする。
「悠人君、待って待って、一緒に行こう」
公園に到着したが、気温が高いからか他には誰もいなかった。
「弥生姉ちゃん、一緒に遊ばないの?」
「私はここで座って二人を見守ってるよ」
「ふーん」
子供たちは小さいけれど、エネルギーの塊みたいだ。
私なんて、外に出ただけで暑さでぐでぐでになってしまうのに、よく走り回る元気があるなと感心してしまう。
私は屋根のあるベンチに座り、二人を見守った。
「二人とも、ちゃんと帽子かぶってるんだよー」
ベンチの近くでは猫が寝っ転がっていたので、私はその猫の頭を撫でる。
「今日も暑いですね」
そう声をかけると、猫はにゃあと眠そうな声で鳴いた。
悠人君とマオ君は、一応二人で遊ぶようにはなったけれど、やはり無言だ。
今は無言でボールの投げあいっこをしている。
多分悠人君も普通に話したいという気持ちはあるけれど、猫の耳と尻尾を見たことが引っかかっているのだろう。
マオ君も、それが分かっているからなかなか踏み込めないようだ。
黙っている二人の間を、ボールが行ったり来たりしている。
あれ、楽しいのかな……。
ベンチに座り、いつの間にかうとうとしてしまった。
「悠人君!」
マオ君の叫び声でハッとした私は、目を見開いた。
「あれは何……?」
遊具の近くで、悠人君が立ちすくんでいる。
そんな悠人君のすぐ近くに、何か白い動物がいた。