「私は今日、昼すぎから喜代さんのお家に遊びに行くことになってるんだ」

「あぁ、隣か」

「夕方には帰ってくるね。行こうか、マオ君」

「はいっ、お父さん、行ってきます!」

 マオ君は緊張した様子で頷いた。
幼稚園では毎日顔を合わせているけれど、悠人君はマオ君とあまり話そうとしてくれないらしい。

「仲良くできるといいね」

 そう言うと、マオ君はやはり緊張した様子で小さく頷いた。


 喜代さんは相変わらず明るく、私たちを元気に出迎えてくれた。

「こんにちは、弥生ちゃん、マオ君。入って入って」

「お邪魔します」

「ほら、悠人、マオ君が来てくれたんだから一緒に遊んだら」

 喜代さんの家も昔ながらの和風なお家だ。悠人君は部屋の端っこで、ヒーロー戦隊のおもちゃで遊んでいる。

 私は彼に近づいて、声をかけた。

「悠人君、こんにちは」

 悠人君は用心深い目つきでマオ君を睨む。かなり警戒している様子だ。
 マオ君はびくびくしながら私の背後に隠れてしまった。

「……俺、絶対に尻尾と人間じゃない耳を見たんだ」

 どう答えていいものかわからず、曖昧に頷く。
 悠人君は本当のことを言っているのに信じてもらえないから歯がゆいのだろう。

 私は話題を変えることにした。

「悠人君、ヒーローが好きなの?」
 そう問いかけると、彼はキラキラ顔を輝かせ、手に持っているおもちゃを私に見せてくれた。

「そう、俺はレッドが好き! 正体を秘密にして、みんなを守るんだ!」

 それから彼は自分のTシャツを私の前に見せる。

「ほら、俺、Tシャツもレッドのやつ!」

 確かに悠人君のTシャツには、大きくレッドの顔が描かれていた。

「本当だ、かっこいいね。これ、日曜の朝にやってるやつだよね。マオ君はあんまり見ないけど、男の子は好きな子多いよねー」

 マオ君はあまり戦隊物には興味がなく、キツネやねこなんかの動物が遊んでいるアニメの方が好きみたいだ。
 話を聞いていた喜代さんがニコニコしながら言う。

「この主人公のレッド役をやってる俳優さんがかっこいいのよー」

 確かに俳優さんはイケメンが多くて、子供よりハマっちゃうお母さんも多いなんて話を耳にしたことがある。

「へー、今度見てみようかな」

 マオ君と悠人君はつかず離れずの距離で、あまり会話せずにそれぞれおもちゃで遊んでいる。
 私と喜代さんは居間の椅子に座って、少し離れた場所から二人を見守った。

「弥生ちゃん、どう思うあの二人?」

「ちょっと壁がありますよね……」

 喜代さんは困った表情で溜め息を吐いた。

「ごめんね本当に変なことを言って。悠人、普段は嘘をついたりお友達を困らせることは言わないんだけどな。どうしてあんなこと言うんだろう」

「いえ、気にしないでください」

 私は微笑みながら、良心がチクチク痛むのを感じていた。
 マオ君も悠人君もどちらも悪くないだけに、穏便に仲直りできる方法があればいいんだけど……。