「もう無理しないでね!」
「大丈夫大丈夫、作品展も終わったし」

 廉冶さんの体調はあれから無事回復し、作品展もつつがなく終了した。

 私とマオ君もチケットを貰ったので、作品展が始まる前日に本土へ向かい、まだほとんど人が入っていない会場を見学させてもらった。

 私はやはり詳しいことは分からなかったけれど、廉冶さんの作品はどれも私の胸を打った。
どの作品も素晴らしかったし、大勢の人が彼の作品に魅せられる理由が分かった気がする。

 実際作品展は、連日大盛況だったようだ。


 作品展が終わってから数日後、藍葉さんが事後の報告にやってきた。

「お疲れ様でした、先生! いやー、展示会は大好評、絶賛の嵐でしたよ!」

 廉冶さんは眠そうな顔で頷いた。
 あれから廉冶さんは、一日中仕事漬けだったのが嘘のようにのんびりしている。
 私と話す時間もよく取ってくれるようになったし、マオ君と一緒に島の中を散歩したり遊びに行くことも多い。

「ここ数ヶ月で、一生分仕事した。
俺、これから三年くらいは、羽根伸ばすわ。俺はそもそも、そんなに仕事ばっかしたいわけじゃないし」

 藍葉さんは少し気まずそうに笑う。

「残念ですが先生、既に二年先までぎっしり仕事の予定が入っておりまして」

 それを聞いた廉冶さんは藍葉さんの頬を全力でつねる。

「このアホ狸が!」

「申し訳ありません! い、いひゃいです! 先生いひゃい!」

「弥生、俺が倒れたのはこいつのせいだぞ! すべての原因はこいつだ!」

 確かに……。

「もう一生仕事なんかしないからな!」

「そんな、先生、困ります!」 

「とにかく今日は俺はゆっくり寝るんだ! お前ももう帰れ!」

 無理矢理追い出された藍葉さんは、仕事部屋を出る直前にぽつりと呟いた。

「でも先生、何だかんだ言って最後はお仕事してくれるんですよね」

「うるせー、もう絶対お前の言うことなんか聞かねー! お前なんかクビだ、クビ!」

 藍葉さんはニコニコしながら頭を下げて、家を出て行った。
 うーん、気弱そうに見えるけれど、けっこう図太いところがある人だ。