廉冶さんがお風呂からあがって寝室に戻ったので、その間にマオ君と用意していた物を寝室の机に置く。

「卵粥か」
「うん。特別な物は入ってないけど、マオ君と一緒に作ったんだ」

 私も子供の頃、風邪をひいた時にお母さんが卵粥を作ってくれたのを思い出した。

 体調が悪い時は、心細くなったりする。一人暮らしを始めたばかりの時、風邪をひいて一人きりだった時は、さみしくて不安で仕方なかった。

そういう時に、家族がただ側にいてくれるだけで、ほっと安心できるんじゃないかと思ったのだ。

 廉冶さんは嬉しそうにそれを手に取る。それから熱いおかゆをゆっくりと口に運んだ。
 味わうように、しみじみと目を閉じる。 

「あぁ、うまいな。優しくて、ほっとする味だ。なんか、久しぶりにゆっくり物を食べた気がする」

 お腹が空いていたのか、すぐに器は空になった。廉冶さんがおかわりと言うと、マオ君は嬉しそうに二杯目のおかゆを持って来た。
 おかゆを食べ終わってから、廉冶さんは満足そうに手を合わせた。

「ごちそうさま。おいしかったよ」

「廉冶さんって、一人で何でもできると思ったけど、寝るのを忘れて仕事するし、ご飯も食べないし、具合悪くなって倒れちゃうし、全然完璧じゃないんだから」

 そう言うと、廉冶さんはおかしそうに笑った。

「そうだよ、俺わりと適当だから。いやでも、本当に二人に心配かけて悪かったよ」

 マオ君は私と廉冶さんの手を、ぎゅっと握った。

「弥生、お父さんはつい無茶しちゃうから、見守っててください」 

 それを聞いた廉冶さんは優しく目を細める。

「本当に、弥生とマオがいてくれてよかった」

 心から安心したように微笑む廉冶さんを見て、温かい気持ちになる。

「おいで、マオ」

 廉冶さんは、両手を広げてマオ君のことをぎゅうっと抱きしめる。
 マオ君は照れくさそうに目を細めて、廉冶さんにしがみついた。
 見守っている私と目が合うと、マオ君は私にも言った。

「弥生も、ぎゅーってしてください!」

「えっ、私は……」

 マオ君にキラキラした瞳でねだられると、断れない。

「そうだそうだ、弥生もおいで」

 恥ずかしいと思いながら、私もマオ君と一緒に、廉冶さんの腕に包まれる。

「二人とも、大好きだよ」

 少し掠れた声で話す廉冶さんの言葉に、心臓の音がうるさくて、何も言えなかった。